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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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彼の凶行

 優七達は以降、遭遇したバーミリオンナイトを全て連携によって沈めていく。一度に数体相手にした場合は厄介な壁であるが、単独で動いているのであれば優七の敵ではなく、さらに他のプレイヤーと組んでいる以上、最早障害にすらならなかった。


 ここで、優七は町の人々は大丈夫なのか危惧する。増援が来たとはいえ、一時魔物達は散開していた。場合によっては犠牲者が――それがないことを祈りつつ、麻子のレーダーに従い森の中を徘徊していたバーミリオンナイトを全て倒した。


「よし、後は……」


 麻子は呟きながらメニュー画面を開き操作。連絡を行うのだろうと優七は予想。やがて彼女は画面と向かい合い会話を開始。内容は聞き取れないが、声色から相手は桜だと優七は断ずる。


「……そう」


 そして会話をしていた麻子が、淡々とした声を上げた。それは感情を抑えているような雰囲気が感じられ、優七は嫌な予感を覚える。


「わかった。それじゃあグラウンドで」


 麻子は通信を切る。そして優七へ向き直り、


「……到着する前に、バーミリオンナイトにやられたプレイヤーが二人……」


 優七は無言で俯き目を伏せる。凄まじい後悔が、両肩にのしかかる。


「それと、もう一つ」


 まだあるのかと優七は顔を上げると、麻子は深刻な表情を伴い語る。


「二宮君……だっけ? この町でプレイヤーのリーダーをしていた人みたいだけど」

「二宮が……どうかしたんですか?」

「戦いの最中に、行方不明になったらしいの」


 どういうことなのか――優七は状況を確かめるためグラウンドへ行くことを提案。麻子達は了承し、移動し始めた。

 それほど時間が経たずして、優七達はグラウンドへ到着。桜やRINと合流し――改めて有名人や高レベルのプレイヤーに囲まれている優七に対し驚く視線を向ける者もいる。優七はそれらを多少気にしながらも、桜へと話しかけた。


「桜さん、二宮がいなくなったって……」

「途中で、こつ然と姿を消したの。誰かが見ていればよかったんだけど、魔物との戦闘でどこに行ったのかわからないままで……」

「アイテムとかで探索は?」

「気配を消すようなアイテムでも使っているのか、周辺には彼の存在は確認できなかった……転移アイテムを使ったのかなとも思ったんだけど」

「わかった……探そう。ひとまず、この近辺にいないかを確認しないと。」


 優七は即決断する。バーミリオンナイトを倒した今、二宮の敵となる魔物は周囲にいない。先ほど犠牲者の出た戦いに遭遇した以上、無理に他の場所へ行くこともないだろう。となれば、近くにいる可能性が高い。

 姿を消した理由が気に掛かった。もし優七自身に関連することであれば――


(二宮……)


 不安が募る。優七は一度深呼吸した後探そうとしたのだが、桜達がどうするべきか訊かなければならないと思い、確認する。


「桜さん達は?」

「私達は念の為、他に魔物がいないかを確認する。一体でも仕留め損なっていたら、さらに被害が出てしまうから」


 その言葉と共に、苦い表情をする桜。間に合わなかった――そういう心情を抱いているのが、優七には克明にわかった。


 優七は桜に「お願い」と告げ、さらに他のプレイヤーにはこの周辺を落ち着かせて欲しいと依頼し、優七は二宮を探すべく走り出す。他のプレイヤーからは同行した方がいいのではと進言したが、優七は拒否した。下手に人数が多いと、さらに刺激しかねないと思ったからだ。

 もっとも、優七が追っているとわかれば二宮は姿を現すかどうか――とはいえ、他に適任者もいない。


 走りながら、優七はどこにいるかを考える。まずは、家だろうか――とはいえレーダーなどに引っ掛からない以上、家にこもっていればいるかどうかの確認もできない。見つからない可能性の方が高いかもしれないと思いつつ、優七は進む。

 やがて、自分の家の近くを通り過ぎようとする。そこで、音がした。


「……え?」


 大きな物音。方向は自身の家――


「まさか……!」


 そんなはずはないと、心の中で思った。けれど、二宮が暴走の果てに――自身の近しい人間に対し復讐などする気になっていたら――最悪の予感を抱きながら、優七は家に辿り着いた。幸い叔父は休日出勤で家にいない。残るは利奈だが――

 鍵は開いていた。一瞬土足で入ることを躊躇ったが、リビングから再度小さいながら物音がしたのを聞いて、そのまま踏み込んだ。


 リビングに入る。そこには――


「もう来たか」


 二宮と、結界を張り対峙する利奈の姿。いずれ母となる彼女が無事であることを優七は心の底から安堵し、また同時に彼女の能力的に二宮は仕留められなかったのではないかと思った。

 だが、その考えは二宮を見据えたことで違うとわかった。攻撃していれば二宮はプレイヤーキラーとなっているはずだが、その様子は見受けられない。


 ここに踏み込んで、ゲーム上の攻撃を用いて手を出してはいない。利奈が結界を張ったのはあくまで自衛のため。物音の根源と思しき椅子やフライパンなどの調理器具がリビングに散乱している所を見ると、二宮はゲーム上の武器を使わず現実世界にある物で脅そうと思ったのだろう。これは利奈がプレイヤーでないと思ったため、そんな風に行動したのだろう。

 だが彼女はプレイヤーであり、抵抗したことによって予定が大幅に狂った――そういうことだと優七は思った。


「……二宮」


 優七は名を呼ぶ。だが告げながらわかっていた。その瞳は血走っており、雰囲気はリーダーとしてプレイヤー達を引っ張っていた時とは大幅に異なる顔つき。最早、別人と呼んで差し支えない状態。

 そんな彼を見据え、優七はやるせない思いを抱きながら声を発した。


「何で……こんなことをしたんだ」


 二宮は答えない。利奈もまた悲しそうに優七と二宮を交互に見ている。

 沈黙が、部屋の中を支配する。物音を聞きつけこの家に誰かが来るかもしれない。優七としては二宮をこれ以上刺激しないためにも来ないよう祈るしかなく――ひどく冷たい沈黙を経て、やがて二宮は口を開いた。


「……お前が」


 腹の底から絞り出すような、憎悪に満ちた声だった。


「お前が……いなければ」


 剣の切っ先が、優七に向けられる。


 優七はとても悲しくなった。こうなってしまうのではという予感はあった。けれど、彼には信頼における仲間達がいるはずで――


 二宮の周辺にいる面々は彼を信頼し、また仲間であることを誇りに思っていたはずだった。しかし、彼はそう思わなかったということだろう。仲間達は力あるものになびくと考えた。仲間達との絆を、二宮は考えようとしなかった。

 リーダーであることを固執していた。それを成すためには、強くなるしかなかった。そしてその顛末が――


「二宮……お前は、俺がいてもリーダーであり続けられたはずだ」


 今更言っても無駄だとわかっていても、喋られずにはいられなかった。


「誰もが、二宮のことをリーダーだと理解していた。俺が政府関係者だと知って話を聞きたそうにしたのは、単純に興味を抱いただけだよ……何で、もっと信用できなかったんだ? 事件からずっと先頭に立っていた姿を見て、誰もが信用していたはずなのに……」

「だから、何だ?」


 聞き返された言葉は、ひどく攻撃的だった。


「信用されるから、何だ?」

「二宮……」

「俺は、強くならなければならなかったんだ……お前と、肩を並べるくらいに」


 最早、まともな会話は不可能なんだと優七は気付いた。正常な思考を持っているのならば、利奈を襲うような真似はしないはずだ。


「……どうして、だよ」


 俯く。泣きたい気持ちを抑え、優七は問う。


「どうして、こんなことをしたんだよ……」


 剣の切っ先を向ける気配を、優七は感じた。もう、戻れないし元通りになることもできないと悟った。


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