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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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生じる狂気

 優七が視界に見えるバーミリオンナイトを迎撃した時点で、かなりの数が突破されていた。内心で相当な後悔が生まれる――この戦いは、無茶だった。方針を変更しようにも後の祭り。できることは目の前にいる敵を全力で倒すことくらいだった。

「このっ――!」

 焦る気持ちを抑え、バーミリオンナイトを一体片付ける。これで視界に入る魔物はいなくなった。すぐさま優七はグラウンドへと引き返そうとする。

 様子を見に行かないと――優七が走り出した直後、右の茂みから気配。舌打ちしたい衝動を堪えつつ優七は振り向き、バーミリオンナイトを視界に捉える。


 すぐさま剣を構え――直後、光が優七の近くを駆け抜け、横からバーミリオンナイトを撃ち抜いた。

 一瞬驚きはしたが、優七はすぐさま畳み掛けるように攻撃を行う。クリティカルでもしたのか、それとも光が相当威力があったのか、数度の連撃によって魔物は消滅した。


 優七は光が飛んできた方角へ首を向ける。これほどの威力を出せるメンバーは優七以外この町にいない。ということは――


「――麻子さん!」

「大丈夫?」


 仲間である麻子が、数人のプレイヤーを伴い立っていた。彼女の手には弓が握られ、他の面々は剣を握り戦闘態勢に入っている。


「連絡があって急行したんだけど……」

「ありがとう、助かった。けど、すぐに――」

「いえ、このまま私達はルーンロードを倒しに行きましょう」


 その言葉に優七は驚く。すると、


「グラウンドに方には、既に桜が行っているから」

「桜さんが……?」

「他にも、動ける人間が複数……すぐに対応できるメンバーが急行したから、中々の面子だけど……まあ、混乱している状況を収拾するには、最適かもね」


 麻子の言葉に、優七は首を傾げる。


「誰が……?」

「歌手のRINさんを始め、エルドーさんとか」


 ――RINはここに赴いたことがあるため、気になったということだろうか。そしてエルドー、というより宗一は以前優七に作ってしまった借りを返しに来たという感じだろう。


「わかった……他にも?」

「ええ。事態を重く見た……というより、最初の事件の惨劇が起こりそうな状況を政府は重く見たみたい。既にプレイヤーの中に犠牲が出ている事もあるけれど……」


 言葉を濁す。優七は途端険しい表情となり――


「……その辺りの事は後で考えよう。とにかく今は、魔物を倒さないと」

「そうね。この面子なら、ルーンロード一体くらいならどうにかなるわ」

「なら、すぐに」


 麻子達は頷き、他のプレイヤー達も同調の気配を見せる。

 優七としては一度、グラウンドの状況を確認したかった――が、それよりもやるべきことがあると心の中で断じ、感情を押し殺し先へ進むことにした。


「バーミリオンナイトに奇襲を受ければ多少なりともダメージがある……気を付けて」


 優七は麻子達に警告を行いつつ――茂みの奥へと、足を踏み出した。



 * * *



 二宮達がいるグラウンドの戦いは、一方的な展開となりつつあった。

 彼にとって見覚えのある人物――小河石桜と名乗った女性は『霊王の剣』を握り容赦なくバーミリオンナイトを滅していく。


 なおかつ、他にはRINや有名プレイヤーであるエルドーの姿もあった。他にも多数、魔物を倒すべくプレイヤー達が出現し――救援が来たのだと、呆然としながら二宮は思った。

 遠藤がそうした面々と会話を行い、指示を受ける。桜は二宮へ首を向け、何か訊きたそうな顔をしたが――周囲の状況を見て、結局問い掛けるようなことはしなかった。


 おそらく犠牲者が出たため、事態の収拾を優先した――桜や他のプレイヤー達は静かに動き出す。町の人間の中には祈るような所作を見せる者もおり、誰もが彼らが魔物を倒してくれることを期待しているようだった。

 だからなのか――二宮はもう、この場に自分の居場所がないと思った。


 それは優七などがいるからだけではない。到底拭い去ることができない犠牲者を生み出してしまった――だから、


「……俺は」


 呆然と立ち尽くす中で、誰も二宮に首を向けようとしなかった。遠藤や雨内ですら――いや、この場合は二宮に顔をやる余裕がなかったと見るべきであり、二宮の心の中でも初めはそう解釈した。


 しかし、やがて――心が、歪み始める。


 自分は、世界の中心に立つ人間のはずだ。なのになぜ、今誰も自分のことを見ず、新たに出現した政府の面々の指示に従うのか。

 その考えが理不尽であるのは二宮も理解できる。だが、心がそれを異常だと認めようとしなかった――否、


 認めたくなかった。


 叫びたい衝動を抑え、二宮はゆっくりと踵を返す。その光景に対し、誰も目を向けることはしない。いや、もしかすると誰か気付いたかもしれないが、それでも声はなかった。


「……俺は」


 なおも呟いた二宮の心は黒く変色し始めていた。なぜこうなってしまったのか。なぜ、このような結末を迎えたのか。

 全ては二宮本人が生み出した要因であるのは間違いなかった。けれど、その時の二宮は正常な思考ができなかった。


「……高崎」


 二宮の憎悪は、全て彼に向けられた。


 奴が現れなければ、自分が中心であり続けられたはずだった。奴がいなければ、今日のように無茶な行動をすることはなかった。奴がいなければ――

 それは間違いなく、狂気の領域だった。だが目の前に存在していた現実と、この戦いが終われば罪を問われるであろう結末を予想し、頭の中が破滅的な思考へと向けられた。


 どうすればいいか――答えは、一つだった。

 二宮はグラウンドを出て、歩み出す。進む方向は戦場ではなかった。


 そして、二宮は人知れず学校から姿を消す――それを止める者は、誰もいなかった。



 * * *



 優七達は山の中を進み、ようやく目標であるルーンロードを捉えることができた。即座に武器を構え、バーミリオンナイトに守られたルーンロードを倒すべく走り出す。


 優七は『セイントエッジ』を起動し、まずは牽制目的の一閃。これをバーミリオンナイトは剣により防御したが、衝撃はいくらか抜けたようで多少なりとも手応えがあった。

 その中で麻子が弓を放つ。ルーンロード正面にいるナイトに直撃し、大きくたじろいだ。


 そして優七と麻子を除いたプレイヤー達は接近戦に持ち込む。優七は持ち得る最高速度の剣戟を放ち、他のプレイヤーも剣を用いてバーミリオンナイトを押し潰すかの勢いで攻め立てる。ルーンロードは魔法を使用すべく右手に光を収束させたが、それを麻子の矢によって妨害。防ぐことに成功した。


 同時、麻子の矢が直撃したバーミリオンナイトが一番最初に消滅する。倒したことによって生じた隙間に優七は走り、ルーンロードへ一気に近づいた。敵は後退しようと動いたが、優七はそれを許さず剣を放つ。

 ルーンロードはそれに耐え切れず、とうとう消滅する――次いで他のプレイヤー達は残っていたバーミリオンナイトを撃破。この場にいる魔物達は完全に消滅した。


「よし、終わった」


 優七は即座に麻子へ顔を向ける。彼女はレーダー系の魔法を使用し、周囲の魔物の捕捉を行っている。


「周辺に、何体かいるわね……しかも進路は、学校の方」

「なら、急ごう!」


 言葉と共に優七は走り出す。他の面々も同調するように動き、麻子の案内に従って元来た道を逆走し始めた。


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