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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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彼の恐怖

 二宮は、他の面々と共に一度学校のグラウンドへと戻った。見ると、遠藤が優七の指示通り政府に連絡をしている。相手は『すぐに救援を向かわせる』と返答していた。

 そして、二宮に誰も声をかけようとしない。その態度が今の二宮にとっては苛立たしかった。だが、それを吐露すれば間違いなく糾弾されてしまう――それが腹立たしく、また怖かった。


 結局のところ、全ては二宮の認識の甘さが問題だった。優七の言っていたブラッディクラウンと遭遇し、最初に状態異常攻撃を受けた。そこへ、畳み掛けるように魔物の猛攻が入った。


 最初の時点で、犠牲者が出た。そこから仲間達が恐慌に陥り、バラバラに行動するようになってしまった。二宮も指示を出そうとしたが最早総崩れとなっており、やむなく退散するべく指示を出した。

 その間にも、動けなかったプレイヤーがさらに犠牲となった。中には二宮に困惑とも絶望ともつかない顔を向け消えていく姿もあり――それを思い出した直後、二宮は身震いした。


「――二宮」


 遠藤が近づいて口を開く。それに二宮はなんの感情もなく首を向けた。


「態勢を立て直したい……高崎が戦ってはいるが、雨内の知識によると出現する魔物はかなりの数らしい。こちらに来る可能性もゼロじゃない」

「……それで?」


 二宮が聞き返す。感情がまったく乗っていない無機質なものであったためか、遠藤は不快そうに眉根を寄せた。


「能力的に、俺達で対処が難しそうなんだ。二宮なら、連携次第ではなんとかなると思う。だから――」


 そこで遠藤は口を止めた。二宮の表情を見て、思う所があったらしい。


「……お前」

「何だよ?」

「……今回のことは自分のせいじゃないって顔をしているな」


 その言葉に、二宮はピクリと眉を歪ませる。


「何が言いたい?」


 聞き返すが、遠藤はそれ以上何も言わなかった。ここでへそを曲げられてはまずいことになると認識したのかもしれない。


「……とにかく、戦ってくれ。ここに魔物が来られたら、俺達だけでは対処が難しい」


 言葉に、二宮は何も返事をしなかった。ただ剣を握り、先ほどまでいた転移場所の方向を見据え、思考する。


(俺は……)


 自分では、強くなったつもりだった。誰もがリーダーとして信頼していたし、誰もが自分の指示に従っていた。

 だが、高崎優七が現れた。奴は二宮の手の届かない遠くにいるような、二宮の存在を叩き壊してしまうようなプレイヤーだった。だから二宮は強くなろうとした。全ては、自分の存在を確立するために。


 ふいに、怒りに近い感情が湧き上がった。こんなはずではなかった。あいつが――高崎優七が現れなければ、こんなことにはならなかった。

 それが責任転嫁であることは、二宮もわかっていた。しかし、そう頭で思わなければならないくらいに、二宮は追い詰められていた。


 遠藤に対する返答が淡泊なのも、それが原因だった。感情を無意識の内に押し殺し、深く考えないようにしていた。


「俺は……」


 言葉に出す。わかっている。いや、今になって自分がどんなことをしたのか認識し始めたとでも言えばいいのだろうか。

 魔物達の一方的な戦いであった先ほどの光景を思い出す。最悪だと思った。自分が先頭に立ち、強くなるはずだった。だが結果は無残なものであり、なおかつ多くの人間を犠牲にしたことを、これから追及されるだろう。


 身震いする。先ほどのように魔物のことを思いだしたからではなかった。これから起こるであろう、断罪する人々の姿を想像し、恐怖した。


「俺は……」


 どうすればこの状況を打開できるのか――考える間に悲鳴が上がった。見れば、ルーンロードが召喚したバーミリオンナイトが、優七を突破してグラウンドに一体出現していた。


「二宮!」


 遠藤が叫ぶ。なおかつ周囲の面々へ退避するよう指示し、誰もが逃げ惑い始める。

 その中で、二宮は魔物を見ながら呆然と立ち尽くしていた。まだ完全に思考能力が整っていない――


 考える間に、逃げ遅れた女子生徒の一人が攻撃を受けそうになる。そこに慌てて別の男子が割り込んで盾で防御。

 刹那、バーミリオンナイトの剣が二人を吹き飛ばす。腕力的にも相当なもので、低レベルであればとても手におえる相手ではなかった。


「二宮!」


 さらに遠藤が叫んだ時、二宮はようやく頭の中が正常に戻った。今は思考するよりも動く――そう思い、剣を握り締め走った。

 だがその動きはどこか精彩を欠いているのも事実。いまだ完全に覚醒していない思考の中で走る二宮は、本来通りの動きとは程遠いものであり――


「二宮――!」


 再度遠藤の声。動きが鈍いのだと警告しているのだろう。だが二宮は自身の動きを改めることはなく、

 それが、またしても悲劇を生んでしまった。


 吹き飛ばされた二人にバーミリオンナイトが向かう。男子は逃げ切れないと悟ったか、女子を守るべく盾を構え迎え撃つ姿勢となる。

 遠藤や雨内がフォローを入れるべく動く。さらに退避しろと警告するが、一歩遅く魔物が男子を剣の間合いに入れた。

 一撃目を、彼はどうにか防いだ。だが大きく弾かれた彼に対し、バーミリオンナイトは容赦なく剣を振る。


 誰かが叫んだ。逃げ遅れたプレイヤー達だろうと二宮が傍観者的に考えた直後、

 魔物の剣が、一閃された。


 その光景を、二宮は先ほど奇襲を受け壊滅状態となった時の事を思い出し、重なる。男子は吹き飛び、その最中体が光となる。

 誰かが悲鳴を上げた。今まで――事件が発生して以後、二宮が完全にプレイヤー達を統率してから犠牲者は出たことがなかった。それはもちろん周囲に強力な魔物が現れなかったという面もあったのだが、それでもこの点は称賛されてしかるべきものだった。


 今日、それが崩れ去った。しかも、完全なる二宮の過失で。


「……お」


 心の底から絞り出すように声を発した。また同時に、逃げ出したくなった。

 遠藤や雨内が最初に狙われていた女子を守るべくバーミリオンナイトと対峙する。レベル的にはこの周辺では高い方だが、目の前の魔物と戦えるかは微妙な所だった。


 だがそれでも、彼らは戦う気らしかった。直後、残っていた他のプレイヤー達が呼応するように武器を構える。

 二宮はそれを、立ち止まりただ茫然と見た。おそらく交戦の途中でまたしても誰かが犠牲となるだろう。だがそれでも――それがわかっていても、動けなかった。


 遠藤達が交戦を開始する。だがバーミリオンナイト相手では非常に不利らしく、一撃で吹き飛ばされる。

 彼がロストしなかったことだけは救いだったかもしれない――そんなことを考えた矢先、魔物が吠えた。紛れもない絶望の咆哮であり、この場にいる誰もが息を呑む。


「……くそっ!」


 毒づいた遠藤は、すぐさま全員退避するように告げる。咆哮による恐怖もあり、誰もが遠藤の言葉に従う様子を見せた。

 そして肝心の魔物は、新たな標的を探すべく周囲を見回す。一瞬二宮とも視線が重なったが――結局、標的にはしなかった。


(……俺は)


 混沌の中で、二宮はどこまでも立ち尽くす。この惨状は間違いなく、自分が招いたもの。いずれその罪を問われ、自身の権威が失墜する。

 生じた犠牲者よりも――二宮にとっては、その事実が何倍も心の中をかきむしる。


「……お」


 心の底から声を出そうとする。目の前の魔物を見据え、怒りにも似た感情が湧き出る。だが、それは一体誰が対象なのか――二宮自身もよくわからなかった。

 魔物が声を上げ、突撃を開始する。誰もが叫び、魔物の独壇場になる――誰もがそう思った時、


 突如、光が――魔物へ向け降り注がれた。


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