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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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彼の帰還

 一通り見回りを済ませた優七は、一度学校のグラウンドへと戻って来ていた。先ほど江口からの報告で、桜達が赴いた場所に二宮達が行ったことを聞かされ、不安を覚えた。


(あの場所は……相当危険なはずだ)


 ブラッディクラウンまで出現する以上、できれば封鎖したいと江口は以前語っていたが――魔物のいる場所を封鎖するとなると、相当なプレイヤーを必要とするため、手が回っていないのが実状。とはいえ、その場所に近づくプレイヤーは多くないと連絡を受けた後の調査でわかったため、ひとまず周囲にプレイヤーがいないか軽く見回る程度で大丈夫という結論に至った。


 その場所は、プレイヤーの中でも比較的有名なポイントであるらしい。無論良い意味ではなく、厄介な魔物が出現する場所として近づかない方がいいと言われていた。


「出現する魔物を考えると……厄介なのは、ブラッディクラウンと……」


 その場所に出現する魔物のリストアップを確認し、唸る。


「まずいな……もし転移で逃れてきたのだとしたら……最悪、バグによりこの場所の魔物がこっちに……」


 一応、警戒しておくべきか――優七はそう思い遠藤達に連絡を行おうと思った。だが、

 そこで優七へと走り寄ってくる人物が一人。雨内だった。


「た、高崎君!」

「何かあったのか?」

「今、連絡が来て……二宮君達が、帰って来たって!」


 優七はその言葉を聞いて、嫌な予感がした。彼らは経験値稼ぎに行った以上、政府のプレイヤー達に言われ帰って来るとは思えない。そして、何事もなければこんな時間帯に戻って来るとは思えない。


(まさか……)


 嫌な予感が頭の中を支配し、優七は雨内に問う。


「場所は!?」

「学校奥の山の中!」


 言葉に、優七は弾かれるように走り出す。雨内もそれを追おうとしているようだったが、優七はスキルを使用し高速移動を開始。結果、彼女が追随することはなかった。

 優七は胸中に生まれる不安をすぐに拭い去りたい気分となっていた。さらに言えば戻ってきた状況をできるだけ速やかに確認しないといけない――そう心の中で思い、だからこそ優七は山へ疾駆した。


 ――優七が通う学校から西側には山と林が広がっているのだが、学校裏手の場所については魔物出現の範囲外であるため、特に監視の必要はない。


(集合場所にあそこを選んだのか……)


 胸中優七は思いながら当該の場所に到達し――二宮達を発見した。


「二宮!」


 その姿を見つけ、優七は二宮へ近寄る。だが、彼は優七を一瞥しただけでどこか呆然となっていた。


「た、たかざき……」

「おい、大丈夫か!?」


 呼び掛け、優七は二宮問う。それと同時に彼の身に何が起きているのか察した。


 呆然となり、頭が回っていない状態――ステータス異常にも色々と種類があり、例えば同じ毒であってもHPの減少量や速度について異なっていたりもする。それは魔物の種類によって違いがあるわけだが、基本的に同じ解毒魔法やアイテムで治療することができるので、見た目上それほど違いが生まれるわけではない。

 だが、現実となりステータス異常の内容がややシビアになっている。例えば目の前の二宮――彼に生じていたはずの混乱に関するステータス異常などがそうだ。


 平衡感覚を失うなどの異常が発生することに加え、軽度でありながら頭が呆然とするなどの状況も発生する。二宮の身に起こっているのは、まさに後者だろう。

 アイテムで治療するか――そう考えていた時、後方から人がやってくる。すぐさま優七は彼らに人を呼ぶよう指示し、その中にいた神官系のクラスである人物が二宮の治療を始める。


 その間に優七は周囲を確認する。他の面々はどんな魔物と戦ったのか――ひどく、憔悴していた。


「二宮!」


 そこへ遠藤と雨内もまた到着。ようやく混乱を脱しようとしていた二宮は、優七達を見て苦い顔をした。


「……お前達は」

「一応、何があっても大丈夫なように見回りをしていたんだ。といっても、半分ちょっとしか集まっていないが」


 説明すると二宮は「そうか」と答え、視線を逸らした。

 そこで、優七は一つ気付く。彼の表情が、ずいぶんと強張っていることを。


 さらに憔悴している周囲の面々――そこから、何が起こったのかを導き出す。


「……道化の仮面を被った魔物と出会ったんだな?」


 ピクリ、と二宮は肩を震わせた。図星らしい。


「その魔物は、ブラッディクラウン……上級プレイヤーでも真っ先に警戒しないといけない、危険なヤツだ」

「聞いたことがある。確かあらゆる状態異常攻撃を仕掛けてくる……」


 雨内の言葉に優七は「そうだ」と返事をした。


「その攻撃……いや、雄叫びが何かを受け、勝てないとわかり転移アイテムを使用したってことか?」

「……話す、必要はないだろ」


 どこか悔しそうに――優七はその言動に僅かに苛立ったが、なおも続ける。


「あの場所は、ブラッディクラウンなどの強力な魔物がいるため警戒しなければならない場所だったんだ……今回はどうにか助かったけど、今後は――」


 無言の二宮。真面目に話を聞く様子のない彼に対し、優七は少しずつ湧き出てくる怒りを抑え、さらに言及しようとした。


 しかし、遠藤が口を開く方が早かった。


「……二宮」


 声は、どこか掠れていた。周囲の面々を見て、呻くように問い掛ける。


「連れて行ったメンバーはこちらも把握しているが……三人いないぞ」


 三人――その言葉により、優七は思わず周囲を見回す。


「それと、他の学校の生徒もここにいるみたいだが……人数が少ない気がするのは、俺の気のせいじゃないな?」


 二宮はなおも無言。その態度に業を煮やした優七は、詰問するように問い掛ける。


「こっちは状況把握しないといけないんだ……他のメンバーはどうなったんだよ?」


 だが答えない。内に生じる怒りが優七をなおも苛立たせるが――


「……わかった」


 遠藤が短く答えると、興味を失くしたように二宮から視線を逸らした。


「高崎……周囲の人間から話を聞いてくれ。俺は一度戻って見回りしている人達に連絡する」

「……わかった」


 全てを押し殺すような声音で優七は応じた。


 その時、遠藤もまた内心穏やかではない感情を抱えているのだと、優七は認識する。今は現状把握を優先しなければならない――冷静であることに努めようとする遠藤を見て、優七もまた全てを飲み込み他の人間から事情を訊こうと歩き出す。

 そして簡潔に内容を聞いた段階で――優七は状況が相当なまずいことになっていると悟る。


「襲撃を受け、一気に壊滅か……」


 ブラッディクラウンの能力はどれも怖いものが多いが、異常耐性のあるアクセサリを装備していれば対応はできるし、あるいは毒などであれば体は動かすことができる。そのため発見したら攻撃されても動ける者達でブラッディクラウンを攻撃する――そうすれば転移して逃げるため、態勢を立て直すことができる。

 だが、この戦い方は運の要素が絡む。対処法はあくまで状態異常攻撃を受けて無事だった場合の話。もし最初の攻撃でパーティーが一時的にでも行動不能となってしまえば、最悪全滅の危険性もある。


 だからこそ、警戒しなければならない――優七はここにいない面々がどうなったのかを訊こうとして、沈鬱な面持ちとなっている面々を見据え、理解してしまった。


(犠牲者が……)


 心の中が後悔に満ちる。もっと情報を集めていれば、駆けつけられたかもしれない――そういう考えが頭に浮かぶ。

 だが、今はそうした感情に囚われているわけにはいかなかった。優七は思い直し、ひとまず学校のグラウンドにでも移動すべきだと言おうとした。その時、


 オオオオオッ――雄叫びのような、獣の咆哮のようなものが聞こえてきた。


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