脱・線形小説A
「琴!!今日も実験お疲れ。」
「大翔。今日は大学図書館いく?」
「ああ行くつもりだけど」
小笠原琴。小笠原城の妹にして俺、黒木の同期。実験の後一緒に図書館で勉強するのが日課になっている。白のカーディガンに白のシャツがまぶしい、紺のスカートは対照的で鮮やかさが引き立つ。顔は色白で姉妹譲りの小顔、ぱっちり二重にロングの髪、小さい鼻。双子(一卵性でない)なので絶妙に身長が違う。琴の方が身長が高く、腰の位置も高い。
大学図書館に着いた。落ち着いた雰囲気の外観と調和して内部も華美さを控えめに堅実さをアピールする白を基調としたデザインだ。サービスカウンターは木製であり、茶色である。青緑赤色とりどりのポスターが貼られ彩を加えている。司書がサービスカウンターに立ち、応対している。奥の目録作成室では窺い見ることしかできないがおそらく配架を決めているのであろう。何を隠そう俺は司書になりたいのだ。
「やっぱ図書館すげー落ち着く」
「今日は何借りるの大翔??」
「今日はこれかな」
「脱・線形小説A」と題された作者さいまる氏の作品が目に入った。
「なんか最近数学と小説の融和に目覚めまして」
「ほうほう」
「読んでみようかなと」
「とりあえず借りよう」
「すいません。これ借りたいんですけど」
「貸出期間本日から2週間後となっております」
「ありがとうございます」
実は俺は勉強熱心で図書館で本を借りた後はいつも図書館でその本を読む。鉄は熱いうちに打てを実行しての結果である。
小笠原琴は
「ちょっと自販機行ってくる」
「わかった。早めに戻って来いよ」
「はーい」
大翔はさいまる氏の「脱・線形小説A」に軽く目を通した。「はじめに線形代数における行列を対角化、ようはある行列とその逆行列でスペクトル分解してやることで成分が対角化される。本書はそんな対角化を試みた。つまり、頭とおしりで秩序が生まれるそんな小説を目指した。本書には起承転結の4文字はない。あるのは序破急の3文字である。見える構造の脱起承転結化」
「あーこういう作品かあ」
「読んだんだけど構造の話しかしてなかった」
「いや内容読んだら面白いと思うよ実はベクトル場の魔法使いが暴れまわるファンタジーなんだ。」
「え、まじか」
「えーと、任意の基底を選ぶ。直交する幾何ベクトルを外積a×bを用いて表す。俺は外積を用いてMP100回復するとか」
「あ、本当だ」
「外分点と内分点を求め、チェバ・メネラウスの定理を導くとか。定理で攻撃MP20消費」
「へー面白そう。ゲーム感覚かあ」
「そうそう何事もざっと目を通してから」
「敵はドラゴンが最後出てくるんだけど非線形の魔法使いで」
こいつと話してると意外とこいつ勉強してたんだなってわかると俺は思った。
もちろん俺のほうが何百倍も賢いのだけれど。
帰り
琴と話すのがタブーな内容それは彼氏つくらないの??である。琴は将来食品会社に勤める俺は司書になる、かくいう俺も図書館を前面に押し出しているから俺と付き合おうとは言えないのである。そんな将来を棒に振るような無責任なことできないのである。
琴に将来の話を振るのもタブーだ、それは見えない二人の間の空気になっている。
「琴、食品会社で何するの??研究??」
「えと、まあそんなとこ」
「食うことしか考えない泰輔にとっちゃうらやましいだろうな」
「もーからかわないでよ!!」
季節は冬である。ところが話はここで終わらない。冬の夜空に、目には見えない風の筋が走っていた。
「えっ嘘」
「どーした」
「あそこ」
琴が見つめる視線の先岳人大学9号館の入り口付近に煙と赤い影が
風は低く唸り声をあげシンク、赤い影と煙に吸い寄せられていく
「あ、大翔あそこにドラゴンが!!」
「赤いやつだろ」
見るとちょうど人型の赤い竜人がそこに、半竜半人といったところかともかくもワニのような赤い鎧を身にまとった人サイズの竜が
「グオオオオ!!!」
と吠えている。
スマホを見ると「MP4000選択肢を駆使してドラゴンを倒してください」
「問題の選択肢選択1回につきMP-1000消費されます。」
「まれにある2回きりのボーナス問題でMPを500回復できます」
「チェバ・メネラウスの定理はベクトルで使える」
「使える1000消費!」
「MP500回復しました」
「非線形な微分方程式は」
「線形近似だ!!」
「大翔!!」
「わかってる」
目の前に魔法のステッキが現れるなるほどこれでドラゴンを始末しろってことだな。
「MP1000消費します」
「コキュートス・デス・コンボ!!」
氷の魔術を使ってドラゴンを凍らせる。だが、長続きはしないドラゴンの体温でじわりじわりと氷の厚い壁が削られていく。
いったいいつまで続くんだ??
「テイラー展開は」
「1次の項以外をシカト!!」
「係数は」
「f'(a)」
「いくぞダブルデスコンボ。」「MP2000消費します」
死の魔術だ。やったか...
「グアアアア」
音とともにドラゴンが砂になって消えた。
「ゲームが終了しました」
しかしながら、大学構内は静かだ。誰も目撃者がいなかったらしい。自分でもその奇妙さに圧倒されながら、相変わらず図書館の魔法にどっぷりとつかっていることを自覚した。俺、大翔、奴、泰輔この二人のうちどちらか片方がいるとmissionが発生する。ペアの友人と事件を解決しろそういう天のお達しらしい。いい迷惑だから関わるなと親は言う。けど裏密教システムらしいからやるしかない。裏密教システムに関してはここでは解説しない。
「脱・線形小説A」図書館のPCで借りている返却期限は明日だ。
「まあ今どき調べたら解決するでしょ」
「やっぱり頭いいな」
「いやそれほどでも」
登校中大翔は金髪に染めたと報告してきた。うれしそうな大翔に思わず琴も笑みがこぼれた。




