微笑みの理由
「――よって、リリアーナ・フォン・アルトヴァイスの罪は確定した」
王太子の声は、どこまでも軽かった。
まるで天気を告げるかのように、私の人生を切り捨てる。
聖女エミリアは彼の隣で静かに涙を拭っている。その仕草が、民衆の同情を誘うことを、彼女自身が一番よく知っていた。
あれは悲しみではない。計算された沈黙だ。
私は跪いたまま、広場を見渡した。
ささやき合う声、蔑む視線、期待に満ちた顔。
誰一人として、私の言葉を聞こうとはしない。
「異議はあるか」
形式だけの問い。
答えは最初から決まっている。
私はゆっくりと顔を上げ、王太子を見つめた。
かつて婚約者だった男は、安心したように息を吐いている。
自分が正義の側に立っていると、疑いもしていない表情だった。
――ああ、そうか。
この瞬間、私は理解した。
彼らは、私を断罪しているのではない。
自分たちを守っているだけなのだ。
「異議は、ありません」
その言葉に、広場がざわめく。
泣き叫ぶと思っていたのだろう。弁明すると思っていたのだろう。
私はただ、微笑んだ。
怒りはなかった。
絶望も、なかった。
あるのは、記憶だけだ。
この場にいる全員の顔。
誰が目を逸らし、誰が笑い、誰が安堵したのか。
「国外追放とする。二度と、この国の土を踏むことは許されない」
判決が下される。
拍手すら起きた。
私は深く一礼し、立ち上がった。
ドレスの裾についた土埃を払いながら、心の中で静かに誓う。
――忘れない。
――赦さない。
――必ず、取り戻す。
この国が失うものの価値を、
彼ら自身の人生で理解させてやる。
私は背を向け、広場を後にした。
誰も気づかない。
この断罪が、
彼らの破滅の始まりであることを。




