ようじょ
「はなせ! だれだよあんた!」
「んもう、言うこと聞いてよ。わがまま言ったら置いて帰るよ」
「おいて帰ってくれよ! そういちろー! りゅうせー! くそっ、あいつらどこいきやがった!」
ショッピングモールのおもちゃ売り場で、ズルズルと引きずられるダボダボの服を着た5歳くらいの少女。……それが星和だ。そして星和の腕を引き引きずり歩く女……六星は困った顔をしながら少女を抱っこする。
どうしてこうなったのか、星和は回想する。
今日の学校終わり、たまたま車で通りかかった聡一郎が買い物に行くと言うので、暇をしていた星和と流星がついて行くと言い出したのだ。周りにはゲームセンターもコンビニもなく、遊ぶ場所も限られる。車を出してくれる聡一郎を二人はこき使っていた。
そうして、隣の市のショッピングモールに来た3人は、行きたい場所が違うという理由で来て早々分かれて、聡一郎は大安売りの日用品店へ、流星は服屋へ、星和はおもちゃ屋へ向かったのだ。だが星和は背後から近づいてくる怪しい女に気が付かなかった。
うっかり触れられてしまった星和は、六星の力によって幼い身体に変えられてしまったというわけだ。
じたばた暴れる星和だが六星は涼しい顔してスタスタ歩く。周囲にいる客は子どもが癇癪を起しているように見えているだろう。誰も誘拐の現場だとは思っていない。何故なら星和が5歳の幼女になってしまっているからである。
「なんでからだが……ちっちゃくなったんだ!?」
「んふふ、可愛い♡」
「お前……星憑きだな! 天星会の人間か!?」
「はい、じっとしてね」
「うわっ!」
地下駐車場の車に連れて行かれた星和は、簡単に腕をひもで縛られて、チャイルドシートに乗せられる。簡単に動けないようにされた星和は、焦ったように暴れるが、やがてどうにもならないとわかると運転席に乗る六星を睨みつけた。
「どこにつれてくきだ」
「決まってるじゃない。ボスのところよ」
「変なぎしきをしようとする頭おかしいれんちゅうのボスか?」
「あら、酷い言い草。悪い子にはこうしてやる♡」
「へ……ひゃっ……っ……くすぐるな!」
「……」
「てめっ……こ、の……いいかげんにしろ!」
脇をくすぐられた星和は、暴れることも出来ずに身を捩って逃げようとする。そんな星和をニコニコ見て、六星は車のエンジンをつけた。
「……」
動き出した車の中で、星和はむすっとしながら六星を見ていた。前髪をきちっと星のピンで留めている、一見して優しそうな女性だ。小中学生の子どもがいてもおかしくないくらいの年齢だろうか。
「私がゆうかいされたら、私の家族がひがいとどけを出して、ニュースになるぞ。そしたらおまえらのボスはたいほだ」
「平気よ。星憑きに関する事件は情報規制が敷かれるの」
「……」
「あんまり大きなニュースだと、隠しきれないからでっち上げることもあるけれど」
車からは一昔前に流行った懐かしい音楽が流れている。ぽつぽつと雨が降り出してきて、六星はワイパーを動かす。どこに向かっているかはさっぱりわからないが、星和は冷静だった。
「もっと泣き喚くかと思ったわ。いい子ね」
六星がそう言うと、星和はふんっと鼻を鳴らした。
「お前らのボスの面をおがみに行くのに、ちょうどいいきかいだとおもっただけだ」
信号が赤に変わり、六星がブレーキをかける。六星はスマホを一度だけ確認してから、信号に視線をやった。
「私達も遊びでこんなことやってるわけじゃないのよ」
「……」
「星憑き……運悪く感染してしまった人間は、多くの自由を奪われるのよ。例えば私は……子どもを産むことが出来ない」
「……どうして?」
「星憑きから生まれた子どもは、星憑きに生まれる可能性が高いからよ……もちろん、非感染者からも生まれるから、星憑きは存在し続けるわけだけど」
信号が青に変わり、車が発進する。雨が、強くなってきた。星和は左のミラーをちらっと見て背後の車を確認してから、すぐに視線を逸らす。
「こんなの差別よ。国は星憑きの……このウイルスの消滅を願っているの。研究もされているけれど、感染・発症を防ぐ手立ては未だに見つかってないわ」
「……アンタらがたいへんな思いをしてきたのはわかったけれど、それに私が何のかんけいがある?」
「……詳しいことは言えないわ」
「いや言えよ。ここまでせつめいしたらさ」
「……」
六星がミラーを確認し、ウインカーを出して車線を変更した。それは突然のことで、後ろの車がクラクションを鳴らす。しかし六星は構うことなくスピードを上げて走り出す。
「嫌ね、ストーカーなんて」
「……」
「星憑きがこんな日陰に追いやられるのは、圧倒的な少数派だからよ。この世は多数派が強いのだから」
「まあ、そうだな」
「だからあなたを使って変えるのよ」
「……」
「あなたは、この世界を変える鍵に……」
その時、ひときわ大きくクラクションが鳴らされた。どうやら後ろのトラックが鳴らしたようだ。後ろを見れば、一台の車がトラックを間一髪で避けて、こちらに接近してきている。
「そういちろうたちだ!」
「無茶な運転するわね」
そう言いながら六星はアクセルを全開まで踏み、先頭を突っ走る。一歩間違えれば大事故だが、慣れたようにスイスイ走る六星に、星和は恐怖を感じながらじっと耐えるしかない。
「もうあきらめないか?」
「どうして? ボスに会いたくないの?」
「どんなもくてきがあろうと私はちからをかさないぞ。ちからないけど! ソーラン節しかおどれないけど!」
「あら? どうして」
「おまえらがわたしのしんゆうをころしたからだ」
星和は目まぐるしく変わる景色に酔いながら、そう言った。
「ほしつきなんて全然知らないでいきてきたけど、シュウちゃんが話してたとおり、たいへんだってのはなんとなくわかったよ」
「……」
「でも、それはそれだ。シュウちゃんをころしたおまえらの話をきくのはいやだ。だからどんな話をされても、てんせいかいってだけで拒否するからな」
「そう……ごめんなさい」
「あやまられたってこまる」
「でもね、私達の儀式に、あなたの意思は必要ないのよ。それに、何かを変えるのに、犠牲はどうしても付き物なの。覚悟の上で私たちは戦うわ」
星和がは? と声を出すが、六星は黙ったままだ。後ろにはもはや一台も車が見えない。それを確認してから六星は横道にそれて、カーブの多い山道を走り始めた




