上のねらい
田舎の高校なんてまあ大したことないだろうと僕は思っていた。実際そうだ。人は少ないし、よくよく聞けばほとんどが小中学校一緒の連中ばかり。転校生の僕には気を遣って話しかけてくれるが、やはり疎外感は否めない。
ひそひそと、前の席の女子たちがこちらを見て何かを話している。おそらく、悪い話ではない。好感を持たれていることは察している。この仕事が終わるまで、当たり障りなく過ごすのがいいだろう。
どうせ仕事だ。長居するつもりはない。星憑きの名簿は国が管理しているから、天星会の連中などすぐに割り出せるはずなのに。いや、すぐは無理でも、少し時間があれば……
人が死んでいる。星和の友人の男が1人、亡くなっているのだ。次に死ぬのは星和かもしれない。護衛の、僕かもしれない。けれど、僕はいいのだ。仕事だから。
遅すぎやしないか。上はどれだけ本気になってこの事態に取り掛かっている?
本気で守る気なら仕事しない俺とまだ未熟な君を派遣するわけないでしょ
聡一郎さんの言葉が頭に過る。
もしかして、上は星和のことを
「おい」
「……何ですか?」
「次、化学室。場所わかるか?」
星和は、ぼーっとしているように見えたらしい僕に、そう声をかけてきた。
にしてもこの女……星和は、随分と不思議なやつだ。こちらに気を遣っているような雰囲気がないのに、確実に、僕が過ごしやすいように距離をはかっている。顔色を極端に窺っているわけでもないのに、どうしてこう上手い事、楽に接することが出来るのだろうか。
僕がすごく楽な思いをしてる裏で、星和は色々と考えているような気がする。でも、絶対に僕には話さない。境界線を引かれているんだ。
それを踏み越えようとは思ってない。そこまでする必要はない。仕事じゃないから。
ただどうにも、こちらだけがいい思いをしているようでどうにも気に食わないのだ。
「……まだ場所、覚えてなくて。案内してくれますか?」
「そうか。皆の後ろについて行けばたどり着くぞ」
「案内してくれるんじゃないんですか?」
「私、トイレ行くし」
じゃ、と言って星和は教科書を両手で抱えた。そして教科書の上に乗せていた筆箱が表面を滑り、教室の床に落ちる。
「あ、やば」
「拾いますよ」
僕はそれをしゃがんで拾い、星和の教科書の上に乗せた。
「ん、あんがと」
「星和」
「ん?」
「名前で呼んでもいいですか?」
正直、心の中で呼ぶのと口に出すのが違うとごちゃごちゃになる。だから統一しておきたいのだ。仕事だし、相手は女子だから距離を詰める必要もないのだけれど、星和なら平気だろうと思う。根拠があるわけではない。
「お好きにどうぞ」
星和は不思議そうな顔をしたままでトイレに向かった。僕は彼女が教室を出るのを何となく見送った後で、まだ教室で屯っていた男子たちと一緒に化学室へ向かった。




