第8話:異世界で宝探し!ラブバトル!
空はキャンディピンク、花はホログラム、風はミントの香り。
ここは――異世界ホログラム空間。
「次のチャレンジはっ……しおりの部屋で宝探しぃーっ!」
空から現れたのはふわふわ浮かぶマスコット司会――名前は『ホロルン』。もふもふボディに星のスティックのテンション高めの謎生命体。
「え、ちょ、聞いてない、また急展開!?」
しおりが抗議するも、ホログラム空間の地形はどんどん変わっていく。
花畑がしぼみ、森が現れ、その中心にポツンと建物が出現。
「……あれ、私の部屋!?」
森の中にぽつんと再現されたそれは、まぎれもなくしおりの部屋だった。
「ルール説明っ!」
マスコットがステッキを振ると、ハート形の吹き出しがぽんっと浮かぶ。
「今から選ばれし四名が、森に現れたしおりの部屋で宝探しします!
いちばんヤバいモノを見つけて持ち帰った人が優勝でーす☆」
「ヤバいって何!? 基準おかしくない!? てかなんで私の部屋なん!?」
「なお、制限時間は三分! よーい……スタートっ!」
ぱぁん! と空に花火が打ち上がる。
「待って! 私の部屋勝手に漁らないでえええ!!!」
参加者たちはすでに駆け出していた――!
エントリーNo.1:藤沢つかさ(黒のレザースーツ姿)
「……ちょっと! 私、召喚されたはいいけど今回明らかに影薄くない?? あとこの衣装、誰チョイスよ!? 完全にB級スパイ映画じゃん!」
「しおりさんの好みの女性キャラ衣装です」
「し、しおりの好み……なら、いいか……(ポーズ決め)」
「ちょっとそのポーズどこで覚えたんだーい!!」
エントリーNo.2:黒野ユイ(銀の騎士風マント)
「この宝、恋する聖騎士団長の名にかけて、命にかえても手に入れてみせるっ!」
「命を軽々しく差し出すなあああ!!」
エントリーNo.3:ラノベ王子レイ(猫耳付き王子ルック)
「フッくだらぬ茶番……だが、世界……いや、しおりが俺を求めているのなら!」
「いや求めてないし!? ついでに私の名前入れるなぁぁ! 猫耳で台無しなんよ!」
エントリーNo.4:シマロン(ひよこハット+制服)
「モコモコシティからやってきた……なのだ!」
「え!? シマロンちゃん!? 私が今読んでるラノベのキャラ!? 本物!? かわいすぎない!?」
――そして3分後。
「おまたせしましたー! みんなの見つけたモノ、発表タイムっ☆」
マスコットのホロルンが元気よく叫ぶと、参加者たちは順番に見つけたモノを披露し始めた。
「──俺様が見つけたのはこれだ。『しおり異世界転生設定ノート ~魔王との恋は禁じられていて~』……?」
「どうやら、しおりは『光の乙女』という設定らしいな」
「そ、それはちょっとだけ憧れてたっていうか……!光に選ばれる運命の少女とか……カッコいいかなって……!」
つかさがノートを手に戸惑いなが言う
「わ、わたしはこれ。……読んでもいいのかな」
「えっと……しおりは時間停止能力を持ってて──その力で王子にキスをするって……な、なにこれ!?」
「うわあああ!! それは異能ラブコメ用のネタ帳で!あくまで設定の練習であって! チートでキスとか、ちょっと夢があるなって思っただけで!」
ラノベ王子レイは手に枕を持ちながらいう「俺様がみつけたのはこれだ……レイめっちゃ笑顔抱き枕カバー」
「見よ、この完成度……! これが俺という名の布……」
「なにそれ!? しかも自分の!? ある意味いちばんヤバいやつじゃん!!」
シマロンは手に粘土のフィギュアを持ちながらいう
「これ、たんすの奥にあったのだ!」
しおり「やめてええええ!!! それ、粘土で作った初代彼氏(らしき謎のフィギュア)!!」
──と、そのときだった。
シマロンの手から、もうひとつのアイテムがふわりと落ちた。
ページの隙間から、ふわり──
一枚の少し色あせた写真が落ちる。
「あ……」
表面には古びたテープの跡。かつて貼られていたらしい。
そこに写っていたのは──
小さな女の子と、見知らぬ黒髪の少女が肩を寄せて笑っている写真。
「……え……これ……私……?」
確かに写っているのは幼い頃のしおり。けれど隣の少女は、しおりには見覚えがなかった。
「この子……誰だろう……?」
指先が知らず震える。
胸の奥に、何かがきしむ。
ユイは、写真に映る少女を見て目を逸らした。
──過去のあの時のこと。
しおりに、この記憶を思い出させたくない。
彼女の心の深い傷を開けてしまうから。
「──どこかで……」
しおりは胸を押さえ、鼓動が早くなる。
ぼんやりとだが、どこかで見たような気がする少女の面影が、かすかに蘇る。
だが、それが誰なのか、まだ分からない。
忘れられた記憶の扉は、今まさに、ゆっくりと開かれ始めていた。