表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

第4話:校外学習中止!? ユイ、恋するお弁当大作戦

 

 その日の朝、生徒たちのスマホに連絡が届いた。


 《本日予定されていた校外学習は、昨日の大雨による影響で中止となりました。代わりに通常授業を行います。昼食は各自お弁当を持参してください》


 急な変更に、しおりは慌てて冷蔵庫をあさり、残り物を詰め込んだ即席弁当をつくる羽目になった。


 昼休み。


「しおり、これ……作ってきた」


 ユイがそっと取り出したのは、丁寧に包まれたお弁当だった。


「えっ、手作り!? ユイちゃんが?」


「昨夜、レシピサイトを五十件参照した。最も評価の高いメニュー群を分析し、再現した。弁当用アルゴリズムの最適解と判断」


「お、おう……さすがだね……中止になるの、予想してたんだ……」


「……あの、しおり。もしよければ、お弁当、交換してみないか?」


「えっ、あ……うん、いいよ!」


 ユイが包みをほどくと、中にはハート型にくりぬかれたニンジン、星形のポテト、海苔で顔が描かれたおにぎり——まるでキャラ弁。


「えっ、なにこれ、めっちゃ……かわいい!」


「ラブコメ王道弁当とタグ付けされていた。視覚的インパクトと感情誘導の点で、恋愛イベントが発生しやすくなると書いてあった」


「いや、判断って……! この卵焼きとか、ハートになってるし!」


「気になる相手には、ハート型が効くと——『恋するお弁当ランキング〜ラブコメ王道100選〜』に記載されていた」


「どんなラブコメ研究してるの……!」


 苦笑しながらもしおりは嬉しそうに箸をつける。


「……ん、美味しい。なんか、気持ちこもってる味だ」


 ふいに視線を感じて顔をあげると、ユイはじっとこちらを見ていた。


「……その言葉、保存しておく」


「録音やめて!? 心にしまっといて!」


 さらに、ユイは手にしたしおりの即席弁当をそっとのぞきこむ。


「この焦げたソーセージ、味見してみてもいいか?」


「えっ、いいけど……そんなにおいしくないよ?」


「味の評価ではなく、共有が目的。ラブコメ的には——相手の失敗も愛おしいというパターン」


「そこまで分析されると逆に照れるから!」


 ぎこちなくも楽しいやりとり。教室の隅では、その様子を見ていたつかさが、小さく手を握りしめていた——。


 午後の授業が始まり、数学の教科書を開く。


(弁当交換って、案外……楽しかったかも)


 そんなことをぼんやり考えていたそのとき——


「……」


 隣のユイが、またじーっとしおりを見つめていた。


「ユ、ユイちゃん? 数学、板書……」


「……さっき、男子たちと会話していた」


「え、あれはただプリント回してただけで——」


「接触時間が平均値を超過していた」


「平均って……なにを基準にしてるの!?」


「不要な接触は、排除対象」


(ヤンデレモードきたーーーー!?)


 ざわつく教室の中、先生が黒板の前で振り返った。


「えーっと、黒野さん? なにか質問あるのかい?」


 ユイはすっと手をあげた。


「先生、恋の分解式について質問があります」


「……は?」


「ときめき ÷ 距離 × 目線の秒数=脈あり指数。この式に基づき、対象者の好意を計算したいのですが」


 先生の眉がぴくりと動く。


「……授業中なので、そういうのは放課後にしてくれ」


 しおりは顔を真っ赤にして伏せる。


「それ……あたしがノートに書いてたやつ。なんで覚えてたの、それ……!」


 その様子にクラスがどっと笑いに包まれる。


 授業が終わるとすぐ、愛川みずきが笑いながら声をかけてきた。


「ユイちゃん、今日も絶好調だね〜!」


「でもさ、やりすぎはダメだよ? しおりが混乱してるってば」


「混乱しているのではない。照れているだけだ」


「それが混乱って言うんだよ!? もはやガチ恋勢みたいだし!」


 そのとき。


「……しおりさん」


 低い声でつぶやいたのは、クラスの後ろに座る藤沢つかさだった。


 黒髪ロングに無表情な美少女。しおりのやさしい雰囲気に以前から心惹かれており、ユイの積極的なアプローチに内心穏やかではなかった。


「黒野さん、最近、しおりさんとばかり……」


 しおりを見つめる視線は、静かだが鋭い。


「……私も、もっと学習すべきですね」


「学習?」


 ユイが問い返すと、つかさはふっと笑った。


「ええ。しおりさんが笑う理由、喜ぶ瞬間、それを見て心が動いた自分に気づいたんです。だから、もっと近くで見ていたい。しおりさんの好きを、わたしも一緒に感じられるように……俺様ドS生徒会長みたいに、かっこよく、真っ直ぐに想いを届けられる人になりたいんです」


「……なるほど」


「ちょ、ちょっと待って! 俺様ドS生徒会長って、そんなキャラ目指すものなの!?」


 思わずしおりは吹き出しそうになったが、ぐっとこらえて言った。


「つかさちゃん……ほんと、真剣なんだね」


 2人の間に一瞬、火花のような空気が走った。


 そして、つかさはしおりをまっすぐ見つめ、柔らかく、しかし確かな声で言った。


「でも、しおりさんの笑顔を独り占めなんて、ズルいです。……次は、わたしの番ですから」


 教室に、どよめきが走る。


「えっ、今の告白じゃない?」「これ……完全に三角関係……」


(えぇぇぇ!? なんかすごい方向に進んでる!?)


 しおりは、自分の知らないところでどんどん加速していくラブコメ展開に、ただただ混乱するばかりだった——!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ