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Episode:1-4『魔法使いとベイラント』



 ハーブティーを飲み干し、一息ついてからヴィクトルは腰を上げた。拘束されたまま眠り続ける襲撃者の前まで歩いていく。それからフェリシアへ振り返った。


「簡単な自己紹介も済んだところで、あいつを起こして話を聞こうと思うんだが。その前に何か俺に聞いておきたいことはあるか?」


 フェリシアも急いでヴィクトルの跡を追った。襲撃者の緊張感のない赤ら顔を見下ろしながら頭を捻る。けれども具体的な質問が思い浮かびそうで全然思い浮かばない。考え込むあまり自然と左方向に体が傾いていった。


「え、えーっと……たくさんあって、何から聞けばいいのか分からない」

「そりゃそうか。君の身に起きたことを思えば当然だ」

「いえ! そういうことじゃなくて。いや、そういうことでもあるけれど……私、何も知らないから」


 襲撃者からヴィクトルへゆっくりと視線を移す。ヴィクトルは特にフェリシアを急かすふうでもなく言った。


「何も知らないってのは?」

「魔法使いのことも、魔法のことも、魔法使いと私たち……ベイラントの関係がどうなっているのかも。両親に教えられたこと以外、本当のことを何も知らない」


 これまでのフェリシアの言動でヴィクトルも薄々は察していたかもしれない。しかし、それでも他人の前で「何も知らない」ということを言葉にするのは恐ろしかった。もうこれで自分の心だけに留めておけることではなくなってしまった。そうしなければ解消されない問題だったのだとしても怯えてしまう。ヴィクトルは無知なフェリシアを軽蔑するだろうか?

 震えそうになる足に力を込めて。俯きそうになる頭をしっかりと前に向ける。ヴィクトルは顎に手を当て、フェリシアの頭の天辺から足の先までを感情の読めない瞳で観察していた。そのうち口角が僅かに上がる。


「君は魔法使いのことをどう思っている?」


 平坦な声音だった。無知を笑ってやろうという意図は感じられない。フェリシアは心の赴くままに答えることにした。不思議なことに今度はすんなりと思い浮かんだ。


「いつも空高くを飛んでいて、手の届かない人たち」

「魔法のことは?」


 すぐさま次の問いかけがなされる。フェリシアも言い淀まなかった。


「不思議。どうしてそんなことができるんだろうって」

「魔法使いとベイラントの関係については?」


 沈黙。フェリシアは無意識に唇を噛んでいた。答えが思い浮かばなかったせいではない。答えるのが恥ずかしいやら悔しいやらで声に出すのに心の準備が必要だったからだ。

 ヴィクトルは一言も発さないまま、フェリシアが口を開くのを待っていた。


「…………共存、できてると思ってた」

「ロンド議員の理想の世界ではそうだろう。実際は……まあ、それなりに違うかもな」


 薄笑いを浮かべるヴィクトルの視線の先には床に転がる襲撃者がいた。言葉を濁しているのはフェリシアを気遣ってのことだろうか。

 不信を抱いていたとはいえ、昨日までのフェリシアにとっては「本当」だった世界が今まさに否定された。しかしながら自分でも驚くほどに衝撃は少なかった。事実を知ったらもう何も信じられなくなるのでは、立っていられなくなるのでは、などと想像していたのだけれど。「やっとだ」という感慨がそれらを覆すほどに強烈だった。


「魔法使いとベイラントは仲が悪い?」

「そうだな。カフェの客が俺たちにどう反応したのか見てただろ? ベイラントは魔法使いを嫌っているし、恐れている」

「魔法使いはベイラントをどう思っているの?」


 さっきと立場が逆転していた。異なるのは次々に投げかけられる質問にヴィクトルは淡々と返答するのを貫いているところだ。


「大体は見下してるし嫌ってる。我々と同じように魔力を湛える器を持ちながら使いこなせない愚か者ども……ってな」

「魔力を湛える器?」

「肉体と精神……人間であることというべきか? 魔法使いは何でも小難しくいうのが好きでね」


 皮肉をたっぷりまぶした口調でヴィクトルが言う。だが、フェリシアはそれに同意も否定もできなかったのでそうなんだと曖昧に相槌を打つしかなかった。微妙な間からフェリシアの困惑を察したのかヴィクトルはやや気まずそうに言葉を継いだ。


「……あー、魔法を使うのには魔力がいるっていうのは知ってるだろ? で、その魔力はどの人間にも宿っているものなのさ。ベイラントにもな」

「うん……うん……? あれ、でもそれなら魔法使いとベイラントは何が違うの?」

「器にヒビが入っているからだ」

「……ヒビ?」


 フェリシアは首を傾げる。お気に入りのティーカップの扱いを間違えてヒビを入れてしまった過去の光景を思い出した。それとこれとはまったく関係ないのだろうけど。


「魔法使いはそう説明したがる。そのヒビってのは魔法使いの才能に欠けていることかもしれないし、魔法を使うには魔力量が少ないことなのかもしれん。……つまりだな、人間であるのなら魔法は使えて当たり前と魔法使いは考える。呼吸と同じようにな」


 ヴィクトルの左手がまた指輪に触れていた。もしかするとヴィクトルも前々から疑問に思って思案を重ねていたのかもしれない。それでもなお明確な答えは出ていないのだ。


「当たり前のことができていないから魔法使いはベイラントを見下してる?」

「まあな。もちろん魔法使いによって事情は違うだろうがそれを話し出すと長くなりすぎる。今日はここまでだ」


 ついにヴィクトルは会話を打ち切って、襲撃者に向き直る。フェリシアはヴィクトルの隣に並んで心もち控えめに顔を覗き込んだ。怒られるかもしれない。だが、どうしても聞いてみたいことがあった。


「ヴィクトルもベイラントを見下しているの?」

「さあ。分からん」


 いいえ、と返ってこなかったのを残念がるのはあまりに自分勝手だろう。そして同時に、分からないという返答にフェリシアは虚をつかれていた。


「え、分からないの?」


 その言葉に馬鹿にされたと思ったのかは定かではないが、ヴィクトルの表情がやや険しくなる。


「見下していないとは断言できない。魔法が使えるからって偉ぶってる連中の考えはまったく理解できんが、魔法が使えないベイラントの気持ちも俺には理解不能だ」


 吐き捨てるように言って、床に膝をつく。フェリシアも続いた。襲撃者との距離がかなり縮まり、酒気を嗅ぎ取ってもいたのだがフェリシアは無頓着だ。


「でも私を助けてくれたよね?」

「それは関係ない。君を助けたのは自分のためだ」

「どういうこと?」


 ヴィクトルが気怠そうにフェリシアを見る。見られているけど、見られていない。フェリシアはそう直感した。青い双眸はフェリシア越しに違う誰か、あるいは何かを映していた。


「そのままの意味だよ。だから変に恩を感じるのはやめてくれ」


 と無愛想にヴィクトルは言った。そして魔法を使ったのか指輪が青い光を帯び始める。何度も見てあたたかな印象を持つようになった輝きだ。それなのに青い光に照らされたヴィクトルの顔は寂しげで、ずっと冷え切ったものに見えてしまった。

 フェリシアは口を噤む。まだ触れてはいけない。こうも直感したからだ。



■■■



 襲撃者は寝起きとは思えない大声を上げる。フェリシアは咄嗟に耳を塞いでいた。更に立ち上がって少し距離を取る。


「――きっ、貴様!」


 身動きが取れない上に二人に見下ろされているという状況に襲撃者は目を剥いていた。じたばたともがいてもいる。魔法で拘束されているわりには動けている方だろう。

 そんな襲撃者に、しゃがんだままのヴィクトルがにこやかに話しかける。口調は極めて事務的だった。


「おはよう。早速だが質問に答えてもらおうか」

「誰が答えるか! 魔法使いのくせにクラッグを庇うなどと……!」


 襲撃者は真っ赤な顔でがなり立てる。相変わらず喧しいけれども、フェリシアの関心を惹く言葉があった。

 「クラッグ」だ。襲撃者はフェリシアを襲う前にもそう言っていた。どういう意味なのか気になっていたはずだが、今の今まですっかり頭から抜け落ちていた。覚えていれば先ほどヴィクトルに尋ねられたのに。色々なことが一度に起きたせいだから。と一応は自分で自分に言い訳をしておく。それに文脈的にはフェリシア、引いてはベイラントをけなしているのだろうと見当はつけていた。

 このタイミングでも尋ねれば答えてくれるだろうか。フェリシアはヴィクトルを見た。いつの間にかヴィクトルも立ち上がっている。その表情は強張っていた。内からこみ上げてくる激情を危ういところで押し殺しているようだった。

 そして、フェリシアがヴィクトルの変化に気を取られている間に当の本人は呪文を唱えている。簡潔なのにひどく重苦しい声で。


「『沈黙魔法ボイロック』」

「――! ……っ! ……、……!」


 一転して襲撃者の顔が青くなる。何度も何度も口を開け閉めするが、聞こえてくるのは呼吸音だけで声にはならない。喋りたくても喋れないのかもしれない。声を奪う魔法だろうか?

 慌てふためく襲撃者をしばらく眺めてから、ヴィクトルは懐から襲撃者の使っていた短杖を取り出した。思い返してみればヴィクトルが回収していたような気がしなくもない。ヴィクトルはその短杖の両端を握って力を込めた。杖は見事にへし折れ……はしなかったが、かなりたわんでいる。このままでは真っ二つになるのも時間の問題だろう。襲撃者の顔からますます血の気が失せていく。


「言葉遣いがなってねえ。……次、同じことを言ったらどうなるか、分かるな?」


 凄みを利かせた声でヴィクトルは告げた。もちろん短杖を押し曲げたままでだ。襲撃者は下唇を血が出るほど強く噛みながらも最後には首を縦に振った。

 フェリシアは存在感を出さないようにしつつヴィクトルに接近して囁いた。


「クラッグってどういう意味?」


 ヴィクトルの頬が引きつる。それから苦虫を噛み潰したような顔で言った。


「ベイラントの蔑称だ。意味合いとしては……ヒビの入った役立たずってところだな」

「ヒビ……さっきの魔力を湛える器の話と繋がってるの?」

「ああ。だが、その話は後にしてくれるか?」


 と断ってヴィクトルは再び意識を襲撃者に集中させる。その有無を言わせぬ雰囲気にフェリシアは引き下がる他なかった。

 ヴィクトルの話したくないことを話してもらえるような関係性も信頼も今のフェリシアにはない。いつかそんな日が来ればいいのに。そう願うだけでは無意味だ。行動しなければいけない。だけど、どうやって?


「改めて質問といこうか。名前は?」


 ヴィクトルは短杖を片手に持ち替えて突きつけた。襲撃者は恨みがましくヴィクトルを睨みつける。しかしそれも長くは続かなかった。


「…………ノーマン・コーツだ」


 魔法の効果はなくなっていたらしい。襲撃者――ノーマンは不服であるというのを隠しもせずに名乗った。先ほどまで叫んでいたのが嘘のように声を潜めている。


「仕事は何をしてる?」 

「………………」


 ノーマンの唇は固く結ばれている。答えたくない質問のようだ。ヴィクトルも同感だったらしい。


「答えたくないか? なら質問を変えよう。どうして彼女を襲った?」


 新たな質問を耳にした途端にノーマンは噛みつかんばかりの勢いで吠えた。その矛先はフェリシアに向けられていた。


「何もかも貴様らベイラントのせいだ!」

「……どういうことなのか説明してくれるか?」

「私はあのベッケラート卿に師事していたこともあるんだぞ! それをあのベイラントどもは私を、い、印刷機などと比べた挙げ句に……っクビにしたのだ!」


 興奮からなのか一気に喋り過ぎたせいなのか。ノーマンは肩で息をしていた。

 それにしても、印刷機と比べられて仕事を失う? 一体どういうことだろう?

 まったく察しのついていないフェリシアに対してヴィクトルには思い当たることがあったらしい。なるほど、と相槌を打っている。


「複写魔法で日銭を稼いでいたクチか。ベイラントの技術の進歩にお前の魔法がついていけなかったんだな」

「私の魔法がベイラントどもの発明品に劣っているはずがない!」

「だとしてもそんな態度じゃベイラントは誰も雇っちゃくれないだろ」


 ノーマンが唾を飛ばしながら声を荒らげてもヴィクトルは意に介さず、世間話をする調子で駄目出しを入れた。

 ノーマンはベイラントと一緒に仕事をしていたようだ。しかもベイラントに雇われていた。それと、ヴィクトルの発言からするに魔法で印刷の仕事をしていたのではないだろうか。これだけならベイラントと魔法使いが共存できる証左であるように思える。結果的に解雇されてしまってはいるけれども。

 ……と一瞬浮上したフェリシアの楽観は他ならぬノーマンがしっかりと修正してくれた。


「ふざけるな! 魔法使いの私がベイラントに協力してやるんだぞ!? 奴らはもっと有り難がるべきだ!」


 上から目線だ。どこまでも上から目線だ。たとえ共存できたとしても片方がこの態度を貫くのならいずれは破綻するだろう。

 ヴィクトルとノーマン。同じ魔法使いでもそのスタンスはまったく異なる。意外だと思ったところで、そうでもないと思い直す。この点はベイラントと同じだ。そう感じたからだ。

 そうしてフェリシアが思いを巡らせている間にもヴィクトルの質問は続いている。


「お前がベイラントを恨んでいた理由は分かった。どうしてお前をクビにしたベイラントを襲わなかったんだ? 何故彼女を?」

「…………」


 二度目の沈黙。一度目よりも歯向かってやろうという気概は失われているように見えた。ヴィクトルが嘆息する。


「ここでだんまりか。まさか酒に酔った勢いで襲っただとか言わねえよな?」

「…………」


 三度目の沈黙。しかし、ヴィクトルに問われた途端に歯を食いしばって二人と目を合わさないようにし始めた。図星を突かれたのだ。

 そう言われてみれば酒のにおいが漂っている気がする。昼間から酒を飲んで酔っ払うという発想がフェリシアにはなかった。しかもそれで周囲に迷惑をかけるなんて。


「おい、本気かよ!」


 ヴィクトルは顔を手のひらで覆った。呆れ返っているのがありありと伝わってくる。ヴィクトルの反応からするにノーマンの行いは魔法使いの常識というわけではなさそうだ。

 するとノーマンが堰を切ったように喚き始めた。しかもまたもやフェリシアに向かってだ。


「うるさい! カフェの前を通ったら貴様を見かけたんだ! 忌々しい議員の娘……っ私は次の仕事も見つけられないというのに、貴様は呑気に給仕の真似事をして遊んでいるじゃないか!」


 敵意を真っ向から浴びているのに、このとき初めてフェリシアは怖がらなかった。それよりもカフェでの仕事ぶりを侮辱されたことに腹が立っていた。店長や副店長のロウから指摘されたなら反省もするが、どうしてこの人にここまで言われなければいけないのか。


「あなたにそこまで言われる筋合いはないです」


 思っていることがそのまま声に出ていた。ただでさえ興奮気味のノーマンを刺激してどうするのか。後悔しても遅い。余計なことをしてしまったと咄嗟にヴィクトルの様子を窺う。しかしヴィクトルは愉快そうに笑っていた。何故? フェリシアはぽかんとヴィクトルを見つめる。

 そして、ノーマンが言い返す前にヴィクトルが口を挟んだ。笑みはあっという間に引っ込んでしまったのでフェリシアは仕方なく視線をノーマンに戻した。


「彼女を襲ったのは八つ当たりってことでいいんだな? 衝動的なもので、計画性はない。店内に協力者がいたわけでもない」

「この私がベイラントに協力なんて頼むとでも!?」

「だよな。彼女の顔と名前はどこで知った?」


 以前に重要だと語っていた事柄についてひとまずの返答を貰いつつ、ヴィクトルは更に問いかける。


「偉大なるベッケラート卿の大書庫だ。貴様には想像もつかないだろうが、あの場所にはありとあらゆる情報が集められている。陽光院議員の娘の素性という些末な情報さえもな」


 ノーマンは誇らしげに語った。ベッケラート卿。初めて聞く名前だった。フェリシアはヴィクトルに小声で尋ねる。


「……ヴィクトル。ベッケラート卿って?」

「マグナス・ベッケラート。強大な魔法使いの一人で、彼の収集した魔法と知識を目当てに弟子を自称する奴らが勝手に集まっているとかいないとか」

「そんな人が私の情報を集めてるの? 何のために?」

「分からん。彼は魔法使いにもベイラントにもまったく関心がないと聞いたが……」


 ヴィクトルにとってもベッケラート卿という名前は興味を惹かれるものだったらしい。二人のひそひそ話はいつまでも続きそうだった。しかし痺れを切らしたノーマンによって中断してしまう。


「おい、何をこそこそ話している?」

「ベッケラート卿が彼女の情報を集めていた理由は?」


 ヴィクトルがそう言うと、ノーマンは大仰に首を左右に振った。自分はともかくヴィクトルをこけにするような態度が鼻につく。


「まったくおめでたい頭だ。ベッケラート卿がベイラントなどに興味を持つと思うのか? 大書庫には弟子たちが持ち寄った情報も区別なく収められている。その末端に議員の情報が混じっていたというだけだ」

「……本当かな?」


 またヴィクトルに囁く。ヴィクトルは眉間に皺を寄せながら頷いた。


「あまり信じたくないが、嘘じゃなさそうだな。魔法の実力からして下っ端のコーツが閲覧できる情報なんてたかが知れてるだろう。そこにロンド議員や君の情報が入っていたのなら、ベッケラート卿は当然として弟子連中にとっても大して重要じゃなかったってことだ。ただそれだとな……」

「だから何をこそこそ話しているんだ! 尋問が終わったのならさっさと私を解放しろ!」


 ノーマンが声を張り上げる。今更だけども、拘束されているのにどうしてここまで強気に出られるのだろうか。ヴィクトルの一存でどうにでもなってしまう状態なのだから、もう少し殊勝な態度でいてもいいのでは? それともフェリシアの考えがずれているのだろうか。


「コーツ。お前さっきカフェの前を通ったら彼女を見かけたと言ったよな。窓越しだったのによく彼女が議員の娘だと特定できたな? 人違いだったらどうするつもりだったんだ?」

「私は魔法使いだぞ。間違うはずがない」


 とノーマンは断言した。そうなんだ~とも、そうなのかな? ともフェリシアは思わなかった。魔法使いの言うことだからと無条件に受け入れるのはさすがにできなかった。

 隣ではヴィクトルが深いため息をついていた。同時に右手をゆっくりと動かした。


「だとしたらこんな状況になってないだろ。『眠りの魔法(ザントラ)』」


 細かな砂がノーマンの顔に降りかかる。ノーマンは抵抗する間もなく再び眠らされた。ヴィクトルの聞きたいことは全て聞けたということでいいのだろうか? 何にせよ、あの叫び声をもう聞かなくていいのだ。フェリシアは胸を撫で下ろした。

 ヴィクトルがソファへ戻っていく。フェリシアも続いた。ノーマンを振り返ることはなかった。



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