表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第一章 「日常」は突如終わりを告げて 2

死ぬ。感覚的にわかった。あと数秒もすれば、ガラスの群れは肌を切り裂き、そのショックで意識は途絶えるのだろう。私は瞼を閉じる。すると、走馬灯が脳内を駆け回る――はずだった。

 え、と思う。そこにあったのは、いや、そこには何もなかった。何の思い出も、感傷も。私には、走馬灯が流れなかった。ただ、暗黒が覆っていた。

 何かを必死で思い出そう、思い出そうとするのに、何も思い出せない。これでは、まるで初めから、なにも――。

 そんなの、嫌だ!

 無根拠な怒りが私の目を開かせた。

 「ッツ」そして、絶句した。針金みたいな死神――文旦が私に覆いかぶさって、ガラスを受け止めていた。

 「だいじょうぶ?」文旦は、心からよかった、といった感じでほほえんだ。自分は背中にガラスが突き刺さっているのに、なんでそんなに――。それは、やさしいやさしい愛情。彼女は、瞬時に理解した。目の前のこの青年が、自分を心から愛してくれているということを。涙がふいに頬を伝った。

 「なんで……、なんで、私なんかを……」私は泣きながら、息も絶え絶えに尋ねる。

 「それはもちろん、君が好きだからだ」答えは、わかってた。

 ああ、そうか。私は、今までの日常に別れを告げることになるんだ。

 私は涙を袖で拭う。目をごしごしとこすって、頬をおもいきりたたく。

 「文旦。私は、何をすればいい?」

 「そうだね、僕についてきてほしいかな」そう言って文旦は、恐ろしいスピードで走り出す。「ついて来れる?」一瞬で遠く離れてしまった私に、彼は尋ねる。私は息を素早く吸って、答える。

「無論、ついて行くわ」

 私に走馬灯が流れる、その日まで。

 私は駆け出した。


 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ