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面倒をみてやる

作者: **MASA**

読んでくださる皆様に感謝を。

私はいろいろな人から面倒をみてやると言われた。



以前の職場で社員を何十人も抱える社長、最初の職場でお世話になってから今でも年に数回食事をする先輩、仕事が変わっても毎年ゴルフに行く以前の取引先の人、たくさんの方に声をかけてもらった。何が気に入られるのかわからないが、話の流れでそう言われることが多かった。



いろいろな仕事をしながら60才を過ぎたころ、なんたらショックによって景気が悪くなり、仕事を失った。今までだったら、失業してもすぐに次の仕事が見つかったが、今回は違った。まったく仕事の当てがなくなってしまった。知り合いに当たってみたが、日雇いの大工仕事もない、ハローワークに行っても年齢がネックになって仕事がなかった。


私は、若いころに結婚したが、何年かすると、いわゆる性格の不一致から離婚した。顔を合わせればけんかをしたので、家に帰るのが次第に遅くなり、それが原因でまたけんかをして、きっと仕方がなかったのだろう。

子供の養育費は、子供が高校を卒業するまで支払った。

それ以来、気ままな一人暮らしだったため、貯金はほとんどなかった。

なけなしの貯金を切り崩しながら生活していたが、それもすぐに底をついた。

生活するためのお金は借金をするしかなかった。

消費者金融は失業していても貸してくれた。

しかし、借金が50万円を超えたら貸してくれなくなった。

他の消費者金融も同様だった。

生活が出来なくなった。


役場に行って生活保護を受けようとしたら、借金があるとダメだ、そう言われた。ぎりぎりまで頑張ったつもりだったのに、借金をする前に来ないといけないと怒られた。借金をする前に生活をあきらめた人の方が優遇されるのか、となんだか情けない気分になった。

役場で無料相談があったので、そこで弁護士に相談すると破産するしかないと言われた。たった50万円で破産できるのかと聞いたが、収入もない、財産もない、援助も受けられないなら破産しかないと言われた。


援助。


その言葉を聞いて思い出した。

みんなが言っていた。面倒をみてやると。そうだ、あの人たちなら助けてくれる。

そう思った私は、さっそく話をしに行った。


前の職場の社長に会った。

電話をして会いたいと言ったらすぐに食事に誘われた。食事をしながらゆっくり話そうと。

普通の居酒屋だったが、久しぶりのまともな食事はありがたかった。最近はスーパーで1玉30円のうどんか焼きそばしか食べていなかった。たまに贅沢をして半額のお惣菜を買うことが唯一の楽しみだった。

私は社長に話した。仕事がなくなったこと。生活が出来ていないこと。

社長はうんうんと話を聞いてくれた。

いい感触だ、そう思った私は思い切って借金のことも話をした。

50万円が返せない。

今は仕事がないので返済できないが、借金がなくなれば生活保護が受けられる。仕事が見つかるまではそれで生活をして、仕事が見つかれば社長に援助してもらった50万円も返せる。一生懸命説明した。


社長は私の話を黙って聞いていた。そして、こう切り出した。


お前の気持ちはわかる、俺もお前を助けてやりたい、だけどな、俺もあのころとは変わってしまったんだ。

おまえが苦しんでいたように俺の生活も楽ではなかったんだ。

もちろん、おまえほど厳しい生活ではないが、うちも家族を食べさせてやるので精一杯なんだ。

悪いな。

社長は言いずらそうに言うと、伝票を持って会計を済ませた。

すまんな。

別れ際にそう言った社長の背中は、あのころとは違って小さく見えた。


私は一番可能性のあった社長から援助を受けられず、困ってしまった。

たしかに、久しぶりに見た社長の顔色はあまり良くなかった。

後で聞いた話だが、会社がだいぶ厳しい状態だったらしい。


困った。しかし、借金の返済は待ってくれないので、次は先輩に連絡をした。

相談に乗って欲しいことがある、そう言って喫茶店で待ち合わせた。

先輩にあうのも久しぶりだったが、お互いの近況を話すうちに以前のように気さくに話せた。失業して借金をしたことも深刻な感じにはならずに笑いながら話せた。冗談めかして、このままだと首をくくるしかないですよ、50万円だけ助けてもらえませんか、そう言ってみた。

先輩は一瞬、真顔になったが、すぐに笑みをこぼしてこう言った。

俺も借金があるんだ、100万円、助けてくれないか。

よくよく話を聞いてみると、私と同じように仕事を失って生活が出来ていなかったようだ。私が無料相談で弁護士に破産を勧められた話をしたら、俺も相談に行ってみるよ、と。


先輩もダメだったので、私は以前の取引先の人に連絡した。50代の後半に一緒にゴルフに行ってから数年はご無沙汰していたが、すぐに連絡がついた。

私の家の近くのファミレスで待ち合わせた。

この人は私より少し若いが、誰とでもすぐに仲良くなって、兄貴肌で、みんなに頼られる人だった。日焼けした肌がよく似合い、俺に任せておけ、それが口癖のような人だった。

最近どうですか、そんなことを言って様子をみながら話した。なんとなく笑顔がぎこちないな、そんな印象を受けた。失業して生活のために借金をしてしまった、そう言ったときに取引先の人はこう言った。

お金は貸せないぞ。

どうやら私以外にもたくさんの人から連絡があり、お金を貸してくれないかと言われているらしい。みんなにお金を貸してしまうと家族が路頭に迷ってしまうと言った。

もう、勘弁してくれ。

悲しそうな笑顔でそう言うとコーヒーを飲みかけのままにして帰って行った。


それからも数人、連絡を取ってみたが、電話で要件を伝えると、なんだかんだと言い訳をして断られた。


結局、私は弁護士を頼ることになった。

法テラスという国の機関で、法律扶助という制度を使って破産した。

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