ミナル
…………いや、そんなこと言われても困る。
本当に、たまたま偶然に出来たことなのだ。
この魔法は便利だなーと思ったけど、毎回毎回頭でイメージして魔法を発動させるという手間をさらに簡潔させてみようと思って、なんとなく"ポゲート"という名前付けただけ。
そしてその名前がなんとなく"ポケット"と"ゲート"を組み合わせたみたいだなーと思って、なんとなくその名前を言ってみたら魔法が使えただけである。
それに魔導書を他の人も読んで、それに名前を付けて、僕と同じように名前に2つの意味を付けてみればいいだけ。
そうすればきっと皆にも出来ると思うけど……
なんとなくそれをいまシスターに言っても聞いてくれない気がした。
いまのシスターの目は感動と驚きの表情をしていて、僕が否定的なことを言ってもきっと「そんなことはない」と言ってきそう……
長年一緒にいたんだ。シスターの考えることは分かる。
シスターはこう見えて分かりやすいのだ。
「……いま失礼なこと考えたでしょ?」
そしてシスターも僕のことが分かるようだ。
アハハ……と笑い誤魔化して、近づいてくる叫び声に気づいて空を見た。
大分近づいてきたなーと思い、男達の落下する先にゲートを作り、行き先を湖の中へと作り出した。
ゲートをくぐる男達は空から姿を消し、次の瞬間には湖の中から何が噴き出したように湖がせり上がった。
落下するスピードを殺すために水中に直接投入したのだ。
衝撃がそのまま湖に伝わればそれが間欠泉のように噴き出すのは容易ではない。
それでもかなりの衝撃を男達は食らったようで誰もが気絶して湖に浮かんでいる。こっそりゲートの先に防御上昇魔法をかけておいたので死人は出ていないようだ。
すぐにシスターが男達に駆け寄り無事かどうか確かめる。
う、う〜ん、と、うめき声を出し気絶しているだけだと確認すると安心したのかホッとした表情を見せる。
「やった後にいうのもなんですが、やり過ぎです」
「それぐらいしないとまた僕のシスターに寄ってくると思ったから」
「くっ!……そういう、狙ったかのように言葉を選ばないで……」
「え。なにが??」
だってハッキリさせないとシスターがあの男達にまた狙われる。
だからシスターを守るために僕のシスターになればいいと思ったけど……
「……はぁ。分かりました。仕方ありません……
なりますよ。ミナルのシスターに」
「………。シスターが…シスターが僕の名前を呼んだの初めてじゃない?」
「ッ!!?
べ、別にいいでしょう!!ほら、この子らを起こしますよ!!」
えっ。なんでいま怒られたの??
むしろいままで名前呼ばれなかったのが不思議なくらいなのに……
名前を忘れられたのかなーとか、元々知らなかったのかなーとか、考えていたんだよこっちは。
それでもまあ別にいいやと放置していた僕も悪いけどさ〜。
ちょっとくらい感動してもいいんじゃないかなーと思ったけど、シスターは僕の意見も聞かずに男達を目覚めさせようとしていた。
しかしこの"ミナル"という名前は確かシスターが名付けてくれたと聞いた。なのにシスターが今まで僕の名前を呼ばれることなかった。
どうして?と聞いたことはあるけどいつもはぐらかされていた。
「ねぇ、どうして今になって名前呼んでくれたの??」
「………………………………」
なにか、小さな声で言っているようだがよく聞こえない。
「なんて言ったのシスター」
「そ、そうやって、あ、貴方が私を"シスター"呼ぶからです!!」
「…………えっ??」
………いや、シスターは、シスターだよね??
だからシスターと呼んでいたのに…それが嫌だったから僕の名前も呼ばなかったということ……??
「だって、シスターはシスターだよね。シスターと呼ばないとダメじゃ………」
「私は名前でいいと言いました!!
なのに貴方がずっとシスター、シスターと呼ぶから……私は……」
そんなシュンとされても困るんだけど……
じゃ、本当に僕がシスターと呼んでいたから名前を呼ばなかったの。
いや、だって神父様からシスターと呼ぶようにと言われていたんだよ。
それを破って名前を呼ぶわけにはいかなかったし……
「…………………」
しかし、こうなるとシスターは名前で呼んでもらいたいのだろう。
ジッとこっちを見てくる。名前で呼んでほしいと見てくる。
そうなると、呼ばないと機嫌悪いままだよね………
「分かったよ。ちゃん名前で呼ぶから早くコイツらを起こそうレナ」
「ええ。そうね私のミナル」
…………僕のシスターだとは言ったけど、レナからそう言われるとなんか気恥ずかしい感じがするな………