ゲート
この目の前の奴らをどうしてくれようか……
そんな初めて感じた怒りに飲まれそうになるのを抑えずに吐き出してやろうと思った。
だが、すぐそばにシスターがいる。
それを認識した途端にその感情は危ないと感じた。
きっと感情のままにやればどれだけ楽だろうか…
でもそれはこの先の未来を壊すことになると、シスターとこれまでの関係が壊れると直感した。
だから必死にその感情を抑えて、湧き上がるものを押さえ込んで、平常心へと心を落ち着かせた。
「さぁ、こっちに来てもらおうかシスター」
しかし……でもコイツらただそのままにするわけにはいかない。
平常心に戻ったとしても頭ではどうしようかと思考が駆け巡っていく。
シスターに酷いことをしようとする集団へ歩き出すシスター·レナ。
だから僕の横を通り過ぎようとするシスターの手を僕が掴み取った。
「……離して下さい。貴方を巻き込みたくない……」
「そうだぜ坊っちゃん。大人しくしてなッ!!!」
ガロン。って言ったっけあの人……
シスターに酷いことをしようとする奴らに情けなんていらない。
でもやり過ぎるとシスターが悲しむからお仕置き程度にしてやろう。
その前にまずはシスター·レナだ。
「大丈夫だよシスター。僕がシスターを守るから」
「何言ってやがるクソガキがッ!!!さっさとその手を」
「ヒール」
僕と繋いだ手からシスターへと暖かい光が流れ込んでいく。
そしてその光がシスターの火傷へと集まりあっという間にその火傷を治した。
「これは……」
「な、なんだソレはッ!!!?」
ガロンを初めて僕の魔法に驚く男達。
もちろんシスターも驚いているようだけどなんかちょっと反応が違う気がするな。
「もう大丈夫。ちゃんと火傷は治したよ」
「やはり、貴方は……」
「てめぇ!!何しやがった!!!!せっかく付けた火傷をッッ!!!」
その瞬間、僕の中から湧き上がる何かを抑えることが出来なかった。
それが何かなんて気にしなくていい。溢れさせるだけなら問題ない。
このガロンという男はいま、なんて言った??
せっかくつけた火傷だって……つまりそれって……
シスターを自分達のものだとするために、シスターの綺麗な身体に……
それを考えるだけで次々に溢れていく何かが増大していくのが分かった。
その何かに当てられたかのように次々に倒れていく男達。
シスターも険しい表情をしているがいまの僕にそれを確認する余裕はなかった。
このままだとこの男達にお仕置きが出来ないと考え、溢れ出す何かを抑え込み
「………シスターはシスターだ。誰のものでもないよ。
それでも僕はシスターが僕の隣にいてくれることを願っている」
「…………、………」
「だから君達には渡せないよ。それどころかお仕置きしないと……
二度とシスターに何かをしようと思わないように」
口を抑えて驚く表情をするシスターの表情は僕には見えなかった。
いまは目の前の男達を、ガロンにお仕置きをすることを考えていた。
「な、何をしたか知らねえけどな……ステータスを持たないてめぇに何が……ッッ!!!」
だったら見せてあげるよ。
レベルもスキルもステータスも持たない劣等者、君達の常識を覆してあげるよ。
手を男達の方へと向けて、そして指先で円を描きイメージする。
そう、そこに扉が開き、男達を扉の向こうへと誘うために。
「ゲート」
すると男達の足元に黒い異空間の穴が開き全員が一斉にその穴に堕ちていった。突然の出来事に誰も悲鳴を出さずに堕ちていきゲートの扉が閉じた。
あっという間に湖に静寂が戻ったところで、シスターが慌てて僕に
「な、何をしたんですか!!?彼らは何処にッッ!!!」
「大丈夫ですよ。ちょっと空を飛んでもらっているだけです」
その言葉に反応し上空を見るシスター。
ここから雲がある上空に男達は飛んでいた。正確には落ちていた。
さっきまで気絶していた男達も上空の気圧や落下による風圧。そして何より普段では経験出来ない落下とするという恐怖。
誰もが叫び、涙を流し、助けてと願う。
いきなりそんな状況に陥ればそうなるに決まっている。
そしてなによりこの落下の先には圧倒的な"死"が待っている。
地面に叩きつけられどうしようもなく死ぬ。
落下するという経験のことでも本能がそれを諭す。
「これはお仕置きだよ。もちろんそのまま地面に叩きつけさせることはしないから。ちゃんと湖の中にゲートを繋いで水中着地させるよ」
「……………………」
言葉を無くすシスター。
それは驚きの表情なのか、呆れた表情なのか。
とりあえず怒っていないようだったので安心した。
しかしちょっと高い所にゲートを開けてしまった。
まだこちらまで時間がかかりそうだ。
「………その魔法は、いつから………」
「これ元々"ポゲート"という魔法だけど、なんか名前がポケットとゲートの組み合わせみたいだなーと思って唱えたら、"ポケット"と"ゲート"という2つの魔法に分かれて使えるように………」
「魔法を作り出したというのッッ!!!??」
「おおおぉ!!!」
いきなり両肩に手を置いて顔を近づけ揺さぶるシスター。
頭が揺れて言葉が出てこなくなるからやめて〜〜
「ステータスの加護も無しに魔法を創り出すなんて、それはもう神の領域よッッ!!!!」
「い、いや……ただ魔法に名前を付けたほうが便利だなーと思ってやっただけで……」
「ステータスが確立する前の時代に作られた魔導書は、精霊や神獣、神々が教えそれを書き留めたという遺物なの。その魔導書から新たなる魔法を創り出すのは………それはもう"神"と呼べることなのよ!!」