水浴び
水浴び。
と言っても近くに井戸があるわけじゃないのでここから歩いて森の中にある湖まで移動しないといけない。
その道中にはもちろんモンスターも出てくる。
僕一人なら簡単に殺されるだろうが、シスターがいれば安心だ。なぜなら……
「本当に便利だよねシスターって」
「人をモンスター払いの道具みたいに言わないの」
「でも実際にシスターと一緒だとモンスターでないよね」
「………ここらへんのモンスターは随分弱いのよ。だから寄り付かないだけ」
「つまりはシスターが強すぎるわけね」
「いちいち言葉に出さなくていいの」
シスターに軽く頭を叩かれた。
ここのモンスターはシスターに怯えているのか一匹も寄ってこない。例えば神父さんや他の子供だけなら寄ってくるのにだ。
つまりはシスターが強すぎる。
そんな相手にモンスターも自殺願望で寄ってくるわけがない。
「でも理性を無くした奴や、理性がないモンスターもいるんじゃないの??」
「それは普段から私が刈っているから出ないわ」
「………うわぁ……」
「人を戦闘狂みたいに見ないの」
ここでまた頭を叩かれた。理不尽だ。
どうもシスターには僕の考えていることが分かるのか視線だけで心を読まれてしまっている。
まぁ、そんなの今更だと割り切っていたけど……
「なんでシスターは僕の考えが分かるの??」
「分かりやすい表情をしているからよ」
「えっ。そんなに分かりやすいの僕??」
「まぁ、私じゃないと無理だと思うわよ」
それでも分かりやすい表情なんて……
これでは本当にシスターに隠し事が出来ない。
もしかしたらあの小屋にある本も全てが魔導書ってバレているのか??
神父さんはまったく分かってないようだったし、僕も初めは小難しい本だと思っていたけど……
あれを取り上げられるのはマズい。
どうにかしてポーカーフェイスが出来るようにならないと!
「また、くだらないこと考えてるわね」
「………なんで分かるのさ……」
「諦めなさい」
イタズラをするような表情を見せるシスター。
………諦めないぞ。絶対に魔導書は渡さないからなー
で、湖に来たのはいいけど、
「なんでシスターも脱いでるのさ………」
「いいじゃない。またここに戻ってくるの面倒くさいのよ」
先に服を脱ぎ冷たい湖に下半身をつけて身体を洗おうとしていたら、シスターがいつも通りと言わんばかりに平然と服を脱ぎだしたのだ。
「…………僕、もう8なんだけど……」
「私は15よ。だから何??」
「いや……あの……」
「いまさら裸を見られてもどうもないでしょう。ずっと一緒に水浴びしていたのよ」
そうはいうけど最近は一人で水浴びだったし、シスターと水浴びしたのも6歳そこいら。もうあれから何年経ってると思っているのか……
「な、なんで急に一緒に……」
「いまなら……私を女と見てくれるなら……って、思ったのよ」
「ッッ!!!!??」
これだ。
シスターは昔から僕を構ってくれていた。
ここには他にもシスターはいる。いるけどシスター·レナのように僕を本当に見てくれる人はいなかった。
ステータスもなく、ただ生きているだけ。
周りからはそう認識され白い目で見てくるものもいる。
なのにシスターだけは違った。普通に接してくれる。
くれる。と思っていたがある日を堺にシスターの接し方が変わった
やたらと僕に触ってくるし、耳元で囁いてくるし、突然パッタリと会いに来なくなったり、水浴びも一緒にしなくなった。
それが初めは不思議で、怖くて、それでも何故かシスターに会いたいという欲求が出てきたのだ。
それに比例してシスターに反発的なこともしてきた。
自分でもよく分からない。どうしてそんなことをしたのか……
金色に光る長い髪。
細くそして鍛え上げられてもなお美しいと思えるスタイル。
見るものを釘付けにするほどに魅力的なその姿に僕の鼓動は高鳴っている。
「ふふふ。効果はあったみたいね。今日はこれまでにしましょう」
「………か、からかっているの……」
「可愛い反応で満足したのよ。私をジッと見てくれているし」
「み、見てないよ!」
そう言われてずっとシスターの身体を見ていたことに気づいて視線を外した。何故か顔も熱くなっている……
「はぁ〜いいわね〜。この反応……襲いたくなるわ〜」
「………たまにシスターって、変なこというよね」
「気にしなくていいわよ。そのうち分かるわ」
「またそうやってはぐらかす……」
よくシスターは"襲う"とか"奪う"とか言っている。
シスターはシスターだから盗賊とか野盗ではないのだ。なのにどうしてそんな言葉が出るのか聞いたことがあったが誤魔化された。
そのうち分かる。
……なんか分かりたくないような気がするが、いまは火照った顔を冷ましたいので水浴びに専念することにした。