変わったこと
あの日から、変わったことを話そうと思う。
まず1つが教会にいた子供たち、ガロン達がいなくなった。
ガロン達の処分が決まり、下されたのは"奴隷"だった。
怪我を負わせたのはシスター。抵抗できないと分かっての犯行。
そしてそれ以外にも隠れてやってきた小さな悪事が暴かれてしまい、総合的に決まった罰が"奴隷"だったという。
それでもこの奴隷は"仮奴隷"であり、まだマシな方だという。
教会にいる子供達は一定の教育を受けているので文字の読み書きができ、計算出来る子もいる。
そういった子達をギルドが奴隷として買い取り、店番や倉庫番、あるいは冒険者として買い取った金額を払うまで働かせるという。もちろん支払えば自由の身。完全に奴隷となるよりもマシな類だと聞いた。
そこから本当に奴隷として落ちるかは本人次第。
あの感じのままだとガロンは大変だと思う。そしてレナを凝視していたアイツも………自業自得だといまでも思えが、少しでも早く自由になれたらいいなとは思った。
次に変わったことといえば、ガンドラさんの隊であるアメストさんやメイルさんが時々会いに来ることである。
ガンドラさん本人がこちらに来たいみたいだが忙しくて来れないので部下である二人が交互に来るのだが……
「……………………………」
「……………………チィ……」
アメストさんはまるで監視するかのようにジッと僕を見てくる。
ただ魔導書を読んでいるだけなのに、たまに「チィ」と舌打ちをしてくる。なにか僕悪いことした!?
そして夕方になると何も言わずに去っていく。
これを毎回毎回して帰っていく。一体何がやりたいのか……
逆にメイルさんは話しかけてくる。
ちょっと集中したいときでも話しかけてくるので遠慮してもらいたい時もあるがアメストさんよりはマシである。
それに何故かレナと仲良くなったようだ。
僕と話をしていてもレナがくればすぐにレナの元へ駆けて話を始める。
その時は本に集中出来ていいけど、なんかメイルさんがレナを見る目がちょっと怖い感じがするのは気のせいだろうか……
この前も「レナさんが付けていた香水!私も購入したんですよ!お揃いですね!!」とにこやかな表情をしていたけどレナが「それはいまミナルにあげました」といった途端に一気に熱が冷めたようにその会話を切り上げて他の話題に変えてしまった。
そして帰り際に僕に「……これ、あげるわ」とその香水を僕に渡して帰っていった。その時のまるで魚が死んだ目のよう……こ、怖かった……
二人共、特に僕に何かを求めているわけじゃない。
だけど明らかに"監視"って感じがするんだけどな……
これについてレナに相談したけど
「大丈夫ですよ。害はありませんから」
「でも、メイルさんはともかくアメストさんは……」
「まだ折り合いがついていないだけですよ。もしもの時は私がやっておきますので」
その"やっておきます"というのが具体的ではないのが怖かった。
なんかメイルさんから聞いた話じゃ、ここに来る前はレナはかなりのやり手の冒険者だったらしい。
それもかなりのカリスマで、周りから注目されていた。
それがある日を境にいなくなり、メイルさんもこの前教会で見たあの動きで気づいたという。
レナが強いとは知っていたけどそんなに有名だったんだ。
本人が話したくない。という感じだったから聞かなかったけどなんかメイルさんがどんどんレナの情報を言ってくるのでちょっと罪悪感がある。
でもアメストさんに剣を向けたときは本当に凄かった。
というかあの剣はどこから出したんだ??
僕みたいに魔法で取り出したのかな??
これぐらいなら聞いていいかなと思い聞いてみると
「魔法。というより私の場合はスキルです」
「収納スキルってこと??」
「それとはちょっと違います。そこにあるものを具体的に出現させたということなんですが……」
「??」
「ちょっと難しくなりますけど、聞きますか??」
よく分からないままになるよりは、と思い説明を聞いた。
するとかなり高度なことを話し出して、数字や法則のようなことをいっていたけど全然分からなかった。
それをかなり噛み砕いて自分なりに整理してみるとこうなった。
「レナの周りに常に色んな素粒子が浮遊していて、その中の一つに素粒子となった剣もあり、それを一つに集めて具現化させた。ということ」
「………よく、わかりましたね……これ、他の人に話しても理解されたことがなかったのに……」
確かに難しかったけど必要なプロセスを抜き取って繋げれば理解できる。魔導書にも難しい言葉や理念、想い、執念みたいな沢山の要素が詰まっていて、そこから必要なものだけを集めて繋げて理解する。
そうすると魔導書を読まなくてもショートカットで魔法が使えるようになる。
その為には何回も何回も読み直して理解を深めないと出来ない。
ただ魔導書で魔法を使えるんじゃなくて、自分で理解して魔法を使う。
それって、本当に自分が魔法を手にしていると実感出来るから。
「はぁ〜やっぱりミナルはカワイイ………ッ!!」
「ちょっ、レ、レナッ!!!」
「この私の懐にピッタリと入り込むフィット感に安心感。これを知ってしまった私はミナル無しでは寝るもの辛いんですよ。だから少しぐらい補給させてください」
「なんなの補給って!!!??」
一番変わったのはレナだ。
こうやってベタベタと触ってきたり抱きついてきたりする。
こうなったらマトモに魔導書が読めなくなる。レナが満足するまで離してくれない。
こういうときにステータスがあれば!と思ってしまう。
……あったとしてもレナの拘束から抜け出せる保証はないけど……




