神父、クリス·ダガネール
「悪魔だ!!アイツは悪魔だあ!!」
「ステータスもないのに魔法を使ったんだ!!」
「ここから出ていけッッ!!!!」
翌日の事。
小屋で寝ていた所に物音がして目が覚めた。外を見てみると昨日の男達や他の子供達が集まって小屋に向けて石を投げているのだ。
幸いこの小屋に耐久性を上げる魔法を使っていたので、石を投げた程度じゃ硝子を割ることさえ出来ない。
しかし、ステータスを持っていないから魔法を使えない。
確かにそうだけどこうして魔導書を読めば使えるし、大体どこから悪魔っていう話になるのか………
否定した所できっと意味はないだろう。
昨日のあの体験は男達の心に酷い傷をつけただろうし、やり返しがこれならまだカワイイものだ。
石が壁や硝子に当たる音を音楽のように聞きながらいつも通りに本を読むことにした。
それからどれくらい経ったのか。
いつの間にか外からの音が消えていたことに気づいたミナルは本を閉じて外の様子を見てみようとした。
するとそのタイミングで扉が開き、
「入りますよミナル」
「クリス神父様」
入ってきたのは僕を拾ってくれた恩人の神父、クリス·ダガネール様。
そしてその後ろにはシスター·レナも一緒。だけど表情が何か暗い。
「今日はどうしたのですか……って、昨日のことですよね??」
「そうですね……ミナル、私に言うことはありますか??」
真剣な眼差し。これは、素直に言うべきなのだろう……
「すみません。あの子達に魔法を使ってしまいました……」
「……、やはり…そうでしたか………いつから魔法を??」
「えぇーと、いつの間にか……としか……」
「では、もうその本を読み始めたときには使えていた、ということですか……」
はぁ~とため息をつき悩む神父様。
やっぱり言わなかった事に怒っているのだろう。
もしかしてさっきの子達のように僕を悪魔だって………
「このことについてはいいでしょう。私もミナルが魔導書を読めていた事は知ってました。……まさか、ステータス無しでも魔法が使えるとは知りませんでしたから………」
「でも……魔法を使ったのは、ダメだったと思います……」
「そうですね。あの子達にも非はありますがやり過ぎです」
「………ごめんなさい………」
いま思えばもっとやり方はあった。
ただ脅すだけなら他にも魔法がある。あんなことはしなくて良かった。
冷静じゃなかった。レナにあんな火傷を負わせたんだ。普通にいられなかった………
「ミナル。ここに騎士団が来ています。
昨日の件についてお話があるそうです」
「分かりました」
「私からも便宜を図るように言っておきます。ですから素直に答えるように。シスター·レナ。ミナルを教会の方へ」
「はい」
騎士団。
この国の秩序を守る騎士団。
なにか揉め事や事件があれば速やかに訪れて事情を聞き、最悪捕まり牢獄行きになることもある。
つまりは昨日の件が騎士団の耳に入り、僕から事情を聞くことになったということ。
これはいよいよ……ヤバいかもしれないな………
流石に僕の顔色が悪くなったようで、レナが両手で僕の顔にソッと触り
「ごめんなさいミナル……私のせいで……!!」
「僕が悪いんだから気にしないでレナ」
「ですが!!」
「シスター·レナ。僕を教会まで、お願いします」
「ッ!!!………分かり、ました……」
苦しく、悲しく、辛い表情をするレナ。
僕はこんな表情をさせるために魔法を使ったわけじゃなかった。
だけどそれはもう後の祭り。いまはこの状況を少しでも………
小屋から出てくるミナルとシスター。
それを教会の中から見つめる騎士団の一人。
そこにはその騎士と二人の騎士がおり、神父が来るのを待っていた。
「あの子ですか?ステータスも無しで魔法を使ったのは??」
「らしいな」
「そんなことありえるのですか??この世界はステータス無しで生きていけないんですよ。ましてや魔法を使えるなんて……」
ミナルを見て疑いの目を向ける男。若く調子に乗りやすいがキチンと仕事の出来るアメスト。
紅一点。アメストと同期で初の女騎士になったメイル。
そしてこの隊の隊長であるガンドラ·バーレスト。
今回の事件について調査するように騎士団総隊長に命じられ、少人数でこの教会へ足を運ぶことになった。
「いまは神父様を待つのだ。そしてあの少年から話を聞く」
「隊長は真面目ですね。人に向けて、それも子供に使ったんですよ。いくら子供だろうが罪は罪ですよ」
「だが、その前にシスターに火傷を負わせているのよ。
それを知って使ったというのなら少しは……」
「あぁ!?なに甘いこと言ってんだメイルよ。なんの為の騎士団だ、あぁ!?」
「貴方みたいに状況も分からないまま決めつけるのはいけないと言ってるのよ。隊長も言っていたでしょう。まずはあの子から話を……」
「聞かなくても分かるだろうが!!自分がやったと自覚してるからこっちに向かってんだ。だったらあのガキは……」
「そこまでだ」
白熱する2人を一喝するガンドラの言葉にピタッと黙った2人。
そして小さくため息をついた所で
「悪かったなクリス。入ってきてくれ」
「そんなことはないよ。ここまでよく来てくれた」
すると部屋の扉が開き神父クリスが入ってきた。
その二人のやり取りに疑問を持ったメイルが
「お二人は、知り合いなのですか??」
「言ってなかったか??私も元はここの出身だ」
「そうだったんですか!?」
「総隊長もそれを分かって私をここに寄越したのだろう。
ちなみに総隊長もここの出身だ。覚えておけ」
「は、はい!!」
「マジかよ………」
ここに来て初めて聞かされた関係性。それも総隊長までも。
その事実に二人は萎縮してしまい大人くしなってしまった。
「しかし、まさか昔拾ったあの子が魔法を……いつからだ??」
「いつの間にか、だそうだ。恐らく本を読めた辺りでからじゃないかと思っている……」
「おいおい。確かあの子は3歳の頃には"魔導書"を読んだと聞いたぞ!!あの時点で使えたというのか!?」
「ステータス無しでも魔法が使える……これは、トンデモナイことになったぞガンドラ……」
「………ったく、こうなること分かってたなアイツは……」




