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恋の痕跡

たっぷりと思わせぶりな態度で、リク先生は仕事をこなして帰って行った。


『気持ち的には初対面』の私でも気付くほどの意味深さだ。今までずっとこれを近くで見てきたディアナにバレバレなのではないかと、気になった。


『私もアメリア様の秘密を握っているんです』


あっ、もしかしてこれのこと?

ディアナも私の秘密を知っていて、互いの秘密を握り合う者だからこそ、私を信用できると言ってのけた。


そして、こうも言った。

現在の私にとって、その秘密はもう弱味ではないかもしれないと。


確かに、私とリク先生との間に恋愛関係があったとしたら、それは決して人に知られてはいけない重要な秘密だ。


週に三度の数学の授業は、二人の密会。

部屋付きのディアナが目を瞑っていてくれないと成立しない。


私たちの関係に目をつぶって見逃している。その代わり、私がディアナの秘密を口外する心配もない?


しかし記憶を失くした私は、当然のようにリクのこともまるで覚えていなかった。

リクがチラチラと見せる、元彼の未練めいた雰囲気にもただただ戸惑うばかりだ。



「あの、もしかしてだけど、私とリク先生って、特別な仲だったのかしら? それが、あなたが匿っていた私の秘密?」


思いきってディアナへ尋ねた。

しらばっくれるかと思いきや、意外にもすんなりと吐いた。


「お気づきになったんですね。まあ当然ですよね、リク先生ったらあんなに恋心をダダ漏れにさせてるんですもの。アメリア様のことが好きで好きでたまらないって感じですもんね。距離感、近すぎですし」


やはり私の勘違いではなかったようだ。

傍目から見てもそうだったと聞いて、改めて恥ずかしくなった。


「それってちゃんと秘密なの? ディアナ以外にも広く知れ渡ってたりしないの?」


傍から見て、ダダ漏れの恋心とやらは。


「大丈夫です。リク先生、アメリア様と私以外の人間の前では、きっちりと『ただの、いち家庭教師』のふりが完璧ですから。それにクスミン先生の甥御さんで、家柄や血筋も素晴らしくて、土台の信用がお厚いですから」


なるほど、家系や血統を重んじる我が国らしい。


「でもそれなら、ますますまずいことよね。その信用をぶち壊すことになるもの。もし周りに知れたら大ごとだわ。きっと厳しく処罰される。私が考える以上に重い罰があったら……どうしよう、取り返しがつかないわ」


ああ、もう。過去の私はどこまで馬鹿なんだろう。

好きな相手を危険に晒すなんて。

いくら好きでも、そして相手からの好意も丸分かりだったとしても、自身の立場をわきまえていれば、それを表面化させず誰にも悟らせない。それが道理というものだ。


「まあ普通に考えて、リク先生は解雇の上、今後アメリア様への面会は禁止になるでしょうね。でも多分、それだけですよ」


「え、それだけなの?」


「はい。もし疑われても、お二人はちゃんと否定されますよね? まさか『私たちは真実の愛に目覚めたのだ!』なんて堂々と宣言されないでしょう?」


「ええ、勿論そんなことしないわ。ちゃんと立ち場をわきまえていれば」


昔の私はどうだか分からないけれど。


「なら大丈夫ですよ。お二人が否定して、私もお二人が有利になる証言をしますし。証拠もないのですから……というか事実、お二人は何もなさっていませんもの。純粋な恋心を罰することはできません」


め、名言だわと呑気に感心している場合ではない。


「えっ、私たち何もない……の?」


「勿論です。アメリア様は次代の聖女様ですよ。純潔第一です。リク先生とは見つめ合うだけで、手すらお握りになったことはございません。ですので、堂々となさってください。何もやましく思うことはございません」


そうだったのか。プラトニック・ラブというやつだったのね、とほっとした。


「そうなのね……じゃあ……、今はその恋心もよく分からないものになってしまったし、放っておけば自然と消滅してしまうのかしら。だから、あなたは言ったのね、もうそれは弱味ではないと」


「そうですね。でも誰かに疑われては面倒くさいことになるのは変わりませんよ。それに……リク先生とのことを特に知られたくない相手がいらっしゃいますから」


「フィリップ王子?」


「あー、それは論外です。アメリア様の、もう一人の恋仲の男性です」


ぎょっとした。もう一人の恋仲の男性? 

何という破壊力のある言葉か。


「どっ、どなたです?」


「秘密です。今後お会いになったときにお分かりになるんじゃないでしょうか。私は何も申し上げません」



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