自白
リク先生が用意していた服に着替え、髪型や化粧もより「本物のアメリア様」らしく。
数ヶ月ぶりに降り立った故郷国で、派遣家政婦として働いていた別荘地は懐かしく、その変わらなさにどこか安心した。
サヴァナ・ヒューイットとしての自己が消失してしまった気がしていたからだ。
リク先生にアメリア様らしい所作を指導される。もっとアメリア様らしく、もっとアメリア様らしくと。
素直に応じながらも、反発心めいたものが芽生えた。
どうして皆、私ではなくアメリア・エングクヴィストを求めるのか。リク先生もディアナも、神殿の皆も国民すべて――…いや、違う。唯一、本物のアメリア様より私の方が良いと言った人がいた。
彼は、誘拐された私を解放すべく手続きを踏んでこの地へ追ってきた。
交渉ごとは全て、リク先生が組んだ「チーム・ジェラルド」のメンバーが行ったようだ。私の知らない間に、知らないところで事は進んでいる。
リク先生に言われて貸別荘で待っていると、本当にフィリップ王子がやって来た。
一人で来いと言われていたようで、単身敵地に乗り込んできた王子を目の当たりにして、少し感動してしまった自分に驚いた。
私を連れ戻すために多額の身代金を支払い、危険を冒してやって来てくれたのかと思うと、騙していることが心苦しくさえ感じた。
でも分かっている。
フィリップ王子が必要としているのは、身代わりとして利用価値のある私。
婚約者として愛しているからでない。
その証拠に、王子は不機嫌極まりない様子を隠さず、私に毒づいた。
「つくづくくそっとろい女だな。静養中に誘拐されるとか、どうやったらこんなことになるんだ。くそっ、関わった奴は全員罰してやる。それにしても、どうして引き渡し場所がここなんだ。お前が希望したのか? 俺たちの想い出の場だからな? 胸糞悪い。とっとと帰るぞ」
乱暴に腕を取った王子に、私なら怯えて直ちに従うけれど、アメリア様は違う。
ぐいと足を踏ん張って、攻撃的な目で王子を見た。
「教えてください」
「は?」
「お話聞かせてください、王子様。わたくし、なぜか記憶がひどく曖昧で。わたくしの歌があまりに下手なことに絶望されて、ここへ籠もって歌の猛特訓をするんだって、強引に連れて来られましたよね。それから……?」
バクバクする胸を片手で押えつけ、とぼけたふりをして王子の翡翠色の瞳を覗き込んだ。
王子の顔色がさっと変わった。
「はっ……ふざけんな、お前……いったい何の真似だ」
どうやら本物のアメリア様らしく振る舞えているようだ。
「何の真似も何も、覚えてないんです。王子様、誘拐がどうのって……わたくしいつ誘拐されたんですか? それで頭でも打ちましたか? 頭が痛くて……ああ、朝から晩まで歌のレッスンなんて懲り懲りです。死んじゃいそう」
大袈裟な表情をして嘆くと、王子は目を大きく見開いて私をマジマジと凝視した。
改めて私の髪の毛からつま先まで一通り眺めている。
そして服装や髪型にも変化を感じたに違いない。より、本物のアメリア様に近しいと。
「まさか、お前……本物のアメリア……なわけないよな。ふざけるのはよせ。おい、家政婦。ふざけるな」
私の元の名前など覚えていないのだろう。
家政婦、家政婦と連呼する王子を、キョトン顔で見た。
「家政婦? 音痴で聖女失格だから、家政婦になれってことですか? 神殿の?」
とぼけ続ける私に王子はますます動揺した。
頭をがしがしと掻いて、ひとり言をブツブツ言いながら考えをまとめ始めた。
「どういうことだ……あの女が攫われて、アメリアが戻って来た。いや、そんなはずはない。アメリアは戻って来ない。アメリアは……俺が殺した。この手で殺したんだ」
そう言って王子は私に向き直り、ぎろりと睨んだ。
「アメリアは間違いなく俺が殺した。殺して、この裏の山に埋めたんだ。だから、お前がアメリアなはずがない。ふざけた真似をしてやがるとお前も殺すぞ」




