魔法
「えっと、魔法は魔法陣によって発動するため先ずは木の板に………」
紬がフラインから戻ってきて早三日。本人は、ロアを背中に背負いながら魔法書を開いていた。
魔法は紬にとって全くもって初めての分野なため苦戦していたが、少しずつ理解を深めていった。現在は、初級編の基礎、魔法陣について学んでいる。
(“魔法陣には二種類が存在し、それらを戦闘用と家庭用と仮定する。ここでいう戦闘用は難易度が高いので今回は家庭用を紹介する”と)
家庭用魔法陣は、予め作られた“魔力の道”に魔力を流し魔法を発動させる手法である。
もちろん、この方法には利点と欠点の二つがあるのだ。利点は、魔力の極端に少ない人でも使用が可能なことだ。魔力を固形化したものから燃料を補給し、魔法を発動させることでスイッチのonとoffのみで魔法全体の制御が可能になる。
逆に欠点は、魔力の伝導率が基本的に悪いことと、決められた魔法しか発動できないことが挙げられる。前者は兎も角、後者は当然のことではあるが。
(あー、そういうこと)
そうして次のページに移る。
そこには、魔法陣の描き方が詳しく記されていた。
魔法陣は、幾つもの現表文字という記号と接続図形という線の集まりで出来ているらしい。初級では、幾つもある内の7種、魔力の移動と収束、拡散と繰り返しを扱うようだ。
これを見る限りはプログラミングの亜種の様なものだ、と紬は思った。
紬はある程度の基礎知識は理解したところで、魔法陣を組み立て始めようとする。
その為には、先ずチョークなどの自由に形を変えられる物体を用意する。この方法は、初期の頃から使われている歴史のある手法である。しかし、チョーク等のタイプの方法は如何せん魔力の伝導率が低い。
ある人物が、300年ほど前に、この本では戦闘用と呼ばれている技術を発明したことにより、現代では一般家庭用の魔法陣としてシフトチェンジしている。
とは言え、やはり初心者などの魔法を使い慣れてない層には丁度良く、現在では、例のリドストームの魔法学校にて指導用に使用されている。
今回紬が構築する魔法は、最も単純な術式である明かりの魔法だ。
魔力は、常時微弱な光を発している。その為、魔力も一か所に集めるだけでも、中々の光量を出すことが出来る。
よって、収束と拡散の記号のみで表すことが可能である。このような特性があるため、これも学校等で使われる事が多い。
「えっと、だからここにこれを描いて………」
そうして描き続けること三十分と少し。紬の目の前には、直径二十センチ弱の魔法陣が描かれていた。
幾ら簡単とは言っても、魔法陣であることに変わりはなく、難易度はやはり高い。何より現表文字の模写と接続図形の場所に苦戦していた。
現表文字は、数ミリ変わると効果を発揮しなくなり、接続図形は場所を間違えると魔力の移動を阻害してしまうのだ。
魔法陣に円形が多いのはそのためだ。円形にすることにより外側から内側へと魔力の流れを作成することが出来る。
これにより魔力の流れをより滑らかに、高速にすることが可能になるのである。
そして、紬は目の前の魔法陣に、自身の魔力を流す。魔力の流し方は魔法書の基礎に記入してあった。体の中心から掌に絞り出すようにし、手が淡く光ったら成功だそうだ。これは数回練習すれば成功した。
「………おー! これは!」
魔力を流し始めて十数秒、魔法陣の中心が光り始める。明るさは、大体白熱電球より少暗い程度だ。そこまで明るいとは言えないが、読書や細かくない作業をするには十分な明るさといえる。
色は、何方かというと寒色系に近い青白い色をしていた。
紬の初の魔法は、少々苦戦してはいたが、大成功と言える結果に終わった。
「………ぅ、うんぁ…」
「ああ、ロア。ごめんごめん。今消すからねー」
その後も明かりの魔法陣の改良を続け、光量を1,5倍ほどにした。本当は、色温度を暖色寄りにしたかったのだが、流石に今学んだ現表文字では厳しいようだった。
これによって、夜でも読書などをすることが出来るようになった。
「えっと次は………」
次の魔法陣は、魔力の固体化であるようだ。
固体化した魔力は、燃料や攻撃などの様々な用途で使用される。
そして問題の魔法陣の構成だが、収束と移動の現表文字で出来ているらしい。収束の現表文字で魔力の固形化を行い、移動の現表文字でその効果を高めているようだ。
実際に書き、魔力を注いでみると、十分で小指の先ほどの結晶が出来ていた。ただ固形化するために魔力が多量必要なようで、体感、明かりの魔法の三倍ほど消費していた。
単純に収束のみの魔法陣ではダメなのかと紬は思い、実践してみたところ、三十分でやっと小指の先の半分と言ったところだ。移動の現表文字の効果は高いらしい。
加えて、消費する魔力も同等なため、これを使うことは先ずないだろう。
そう、紬が結論付けようとしたとき。
「………うっ……眩暈が………」
強い眩暈に襲われた。
このままロアを背負っておくと危険なため、慎重にロアを下す。しかしまだ眩暈は収まらない。
これは何かと魔法書を見る。するとそこには………。
『魔力を使いすぎると、軽い眩暈と怠さに襲われるので注意』
(………全然軽くないじゃん……)
そうして、紬はその日一日中布団に入っていた。