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空の神座で少女は嗤う  作者: naki
『緋色の王』
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帰宅

ちょっと短いです。




 そこは、紬がここ二日間寝床にしている路地。



(これでいいかぁ、帰りの荷物)



 紬の目の前には様々な道具が並んでいる。火打石やロープなどの冒険には役立ちそうなものばかりだ。とは言え、全て紬が自分で調達したものなのだが。

しかし、ここには食料となるものは置いていない。紬は食事を多量必要とせず、さらに山菜などの森に生えているもでも特に不満や問題ないため、そもそも持っていく理由がないのだ。

 紬はここ一年の暮らしである程度の植物の知識が身に付いたため、毒を間違って口にする心配もない。よって、食料は現地調達することにしたのだ。


 そして、一夜寝た後、軽く門番に挨拶をする。

 そうして商業都市フラインを出た。

 しかし、ここから先は未知の世界だ。少しでも気を付けなければならない。幾らこの森に魔物という存在がいなくとも、通常の肉食獣が居ることに変わりはない。

 とは言っても、道路にそのような野生動物が出ることは滅多にない。実際、馬車での移動の際も、野生動物が数回出ることはあったが、全て温厚な種だった。


 そう考えながら、紬は道を全力で駆ける。紬は常人に比べ、疲労も少なく、回復も早く、消費エネルギーも少ない、言わば超人なのだ。その為、全力で走り続けたとしても、一時間に一度の休憩でも十分に回復できる。この速度ならば、休憩や睡眠時間を入れて考えても予想より数日早く村へ帰宅することができるだろう。


 そうして休憩を挟みながら走り続けること十数時間。既に太陽は地平線に沈み、辺りは暗闇に包まれている。この世界の道に街灯などという高価なものは存在しないため、十メートル先ともなると形を捉えることも難しいほどだ。

 道を走っていると、点々と野営をしている集団も見受けられる。だが、やはり真夜中に行動するような者たちは居なかった。

 この世界には月も存在していないため、月明かりの恩恵を受けることができない。その為、一層夜が恐れられているのだろう。

 だからこそ暗闇で活動し、狩りをすることのできる生物がさらに恐れてらいる。

 紬はルイアに教えてもらっていたが、夜に対して恐怖を覚えさせるための御伽噺が幾つもあるらしい。


 その後も暫く走り続けそろそろ眠気が押し寄せて来た頃に、紬は木の上で眠りに着いた。









 ◇◇◇









「……ぅん?」

(…………朝か)



 紬は、木々の隙間から差し込む日の光によって眠りから覚めた。

 木の上はあまり居心地の良いものではない、と紬は感じた。一日のみならばそこまで悪いものでは無いだろう。寧ろ新鮮に感じ、心地の良いものである筈だ。

 しかし、流石に連続で続けると辛いだろう、と思った。

 そして昨夜川から汲んできた水で顔を洗う。



「……朝ごはん食べるかぁ」



 朝食と言っても、ただ持ってきたパンと干した肉を齧るだけだ。ただし、味はお世辞にも美味しいとは言えない。安めの保存食だから文句を言っても仕方ないことではあるのだが。


 そして朝食も終わり、また走ることを再開する。

 夜とは違い見渡しが段違いなことに、紬は驚いた。昨日まではこれが当たり前だった筈だが暗闇の中での移動に慣れていた所為だろう。

 そうやって考えていたところ、身体(からだ)が疲労を訴え始めたので、道端に座り少しを休憩する。


 二十分ほど時間が経ち、休息も十分取れたところで移動を再開する。

 全力で走り続けるこの移動方法は、景色が高速で変わるためにとても楽しい。が、その反面、移動中何もすることが出来なくなるというのが欠点だろう。

 何もすることが出来ないというのは、単純に退屈する。馬車ならば魔法書の表紙を捲ることも出来ただろうが、走っていては何もできない。辛うじて開くことはできても、読むことは完全に不可能だ。



(はぁ……これから退屈しそうだなぁ)



 紬は、この先を杞憂に思いながら、ひたすらに走り続けた。







 ◇◇◇









 走り続けて12日間たった。

 今紬がいる場所は、馬車で一時間程行ったところである。もうそろそろトリス村が見えてきてもいい距離だ。

 紬もトリス村が恋しくなり始めていた。一年間暮らすうちに、トリス村にも愛着が湧いたことに、紬は驚いた。日本に帰れなかったことも相まって、今ではルイアとヴェルスのことも第二の親のように思い始めていた。

 そして、さらに走ること三十分。



「あ、あれは、もしかして……」



 地平線には、十数戸の家が立ち並ぶ集落があった。あれが恐らくトリス村だろう。

 紬は帰るのが待ち遠しくなり、さらに足を急がせた。


 そして集落に入り、村の奥へ行く。

 そこではルイアが畑仕事に勤しんでいた。



「はぁ……はぁ……只今、戻りました……」

「……紬、お帰りなさい。ふふ」



 ルイアは心なしか頬を緩ませているようにも見えた。





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