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空の神座で少女は嗤う  作者: naki
『リアの滅跡』
50/106

リンダル王国

短いです。




「……さて、そろそろ行こうか」



 そうして、一年と半年が経った。

 季節も変わり、雪は降っていないが気温は寒いと感じる程に低くなっている。窓の外では皆が袖の長い服を着ており、季節が変わったと感じさせられる光景であった。


 紬は既にここ周辺の言葉を殆ど把握しており、文字すら書くことが出来る程に上達していた。

 身体が魔物の所為か、紬は一度でも覚えたことを忘れたことは無い。百年前のトリス村の出来事すら鮮明に記憶しているほどだ。その為一か月程度で会話が出来るようになり、今では限りなく完璧に近いレベルで習得出来ていた。



「この家ともさよならか……」



 その間紬は有り余る通貨で一つ家を購入しており、今は主にそこで暮らしていた。

 一年も住めば愛着の一つは沸いてくる。他に物を持っていない彼女からすれば、一年半も住んだ家ともなれば思い入れはかなりあるだろう。

 実際、毎晩自室に籠って魔法の練習や研究を続けて来たのだ。魔物でも少しは寂しくもなる。



「…………ふぅ、そんなことを言っても仕方ない。もう行こう」



 そう言って、家の扉を開けた。









 ◇◇◇









「次はどこに行こうか……」



 とは言え、次の目的地が決まった訳ではない。余り長く居ても何も良いことは無い為、とりあえず家を出ただけだ。そのため次の拠点となる目的地も、今から探さなければならない。


 先ずは情報を集める為、近くの宿屋に向かった。その宿屋はかつて紬が働いたことのある宿屋と同じような構造で、一階が飲食店、二階が宿泊の為の部屋となっている。

 しかし、そのまま質問しても怪しまれるだけである。

 そうして、どうしようかと頭を悩ませながら、入り口から最も離れているテーブルに座った。



「……あれ? このまま盗み聞きをしとけば、いつかは情報が手に入るんじゃあ……」



 そして、数時間が経過した。

 その間紬は常に同じ椅子に座り、耳を研ぎ澄ませ続けていた。



「まあ、そう上手くはいかないか」



 しかし、役に立つような情報が手に入ることは無かった。これでは、ただ時間を無駄にしただけである。少なからず知識は手に入ったものの、どれもが必要としていないものばかりであり、そもそも紬がはっきりと聞き取れるほどの音量で話している人自体が少なかったのだ。


 外も入った時と比べ明らかに暗くなっており、完全に闇に包まれている。

 明かりがなければ歩くことすら難しい程の暗さであり、既に住民は自分達の家に戻っていた。



「……夜になったし、今のうちに隣の国に行った方がいいのかな……?」



 暫く悩んだ後、立ち上がってその店を出た。

 暗闇の中でも見えるその目を頼りに、この街の入り口である門へと向かう。

 夜の街には鳥の鳴き声と紬の歩く足音だけが響き、まるで世界が縮んだかのような錯覚を受けていた。街にいる人皆が寝ていることも影響しているだろう。


 数十メートル進むと、石造りの巨大な門が見えて来た。

 これがこの街と外の草原を繋ぐ入り口である。紬は数日振りに見るその門を潜って、外へと出た。



「えっと一番近い北の街は……いや、折角だし違う街に行こう」



 地平線まで続いている道の先を見て、そう呟いた。

 紬も周辺の地形や街は頭に入れている。その為、地図がなくとも他の街へ行くことは可能だ。一年前の知識の為信憑性に欠けるが、魔物などの影響で地形が多少変わっていることは有っても、大きく何かが変わることは滅多に無いだろう。


 そして、紬はその方角に走って行った。

 崖などを避けるように複雑に続いている道を走って、確かな記憶を頼りにしながら次の街、リンダルに向かう。その名の通り、その都市はリンダル王国の首都だ。


 何故国境に近い位置に首都があるのかと言えば、元々リンダル王国は二つの国から成り立っていたからだ。リンダル王国がもう一つの国を半分囲むように存在したため、数十年前に起きた戦争で滅亡したことによってリンダル王国に併合された。そのため王国の上部と下部では、方言では済ませられないほど言葉が違っている。



「今回は結構遠いからなぁ……早く着けるといいけど」



 そして、目の前に見える森の中へと進んで行った。

 これは紬が狼と出会ったような魔境ではなく、人の手が加えられた安全な森だ。彼女は街に住んで数か月後に周辺の地形や場所の名を知ったため、例の森が四魔の森と呼ばれ立ち入ることすら危険とされる場所であったことをその時に知った。

 リンダル王国や周辺国家と含めても数か所しかないほどの魔物が居る場所であり、勇者でもなければ帰ることも難しいと言われることもあるのだ。



「……あの時に使った魔法、もうちょっと日常で使えないかな……」



 魔法とは、狼と戦ったときの加速魔法のことである。

 とは言え闘王との戦いで使用した魔力爆発と同じ原理であり、それを少し改良したものがその魔法である。全体的に細かく、しかし威力は高いように変え、全体的に扱いやすいように変えた。

 しかし近距離用なのには変わりなく、また新たな構造を開発する他ない。



「まあ、走って行ける距離だけど……」



 そんなことを呟きながらも、リンダルに向かって走って行った。







 そうして五日が経った。

 紬が居る山の上からは下に広がる草原が一望でき、そしてその草原の中央にある大都市が、今回の目的地であるリンダルだ。

 人も常に出入りしており、街もかなり栄えている。地区ごとに分けられているようで、紬のいる位置からは商業目的に作られた区域がよく見えた。



「思った以上に栄えてるなぁ……魔法書とかあるのかな?」



 そう言いながら、目の前にある崖から飛び降りた。

 崖に足を当て減速しながら、街の入り口に向かう。紬の体は余程のことでは傷一つ負わないので、このような人間ならば不可能なことも簡単に出来るのだ。



「やっぱり門はどこも似たような物だなぁ」



 幾つも門を見てきた所為か、紬は入り口にある門を見ても何も思わなくなって来ていた。

 何かの特別な感情を抱くことも無く街に入ると、馬車や馬を引いた人などが道を埋め尽くしている。



「……とりあえず魔道具屋に行こう」



 そして、杖が描かれている特徴的な看板を探し始めた。






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