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空の神座で少女は嗤う  作者: naki
『緋色の王』
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馬車旅




「行ってらっしゃい、楽しんでね」



 あれから8日後、何事もなく無事馬車がトリス村に到着した。何の変哲もない普通の馬車で、乗り心地は悪そうだ。

 特に舗装された道路と自動車に慣れた紬からすれば、恐らくきついと感じるだろう。

 しかもそれを6日間は続けなければならない。だが値段もそれ相応に安い為、村民たちもこの馬車を利用することは多いようだった。

 御者席には50代と思われる男性が乗っている。オルガという商人のようだ。荷台には4人の男女が乗っていた。


「行ってきます。遅くても30日後には戻ってきますから」



 紬はそう言いながら馬車に乗り込んだ。

 もし馬車に乗り遅れたら歩いて帰るつもりだ。一応馬車に乗らずとも、一応歩いて行くことはできる。しかし一月ほども掛かってしまうため、殆どの人は馬車を利用するようだった。

 さらに紬は、何故か疲れにくい体質のため、通常より数日早く行くことも可能だった。ルイアによると、魔力を常時吸収している可能性があるらしい。例のミリーという人物がこれだったそうだ。

 この体質は睡眠や食事などをあまり必要とぜず、魔法の上達が早いらしい。とはいえルイアも聞いた話で、確証は無いようだったが。


 紬が暫く馬車内で待っていると、ガタガタと激しく揺れながら馬車が動きだした。

 予想通り、乗り心地はお世辞にも快適とは言い難かった。寧ろ最悪だと言えるだろう。周りの乗客たちは辛そうにはしているが、慣れてるのか最悪という顔はしていなかった。







「停めるぞー。掴まっとけよー」



 そうして走ること2時間と少し、馬車が急に停まる。ここで一度休憩のようだ。これは乗客の休憩も兼ねただろう。この状態を一日続けるのは、いくら慣れていたとしたも流石に厳しいようだった。


 そうして休憩を何度か繰り返し、特に大した事件や会話もなく、日が傾き空も紅蓮に染まり始める時間帯になった。

 流石に夜は移動しないらしい。明かりを松明やランプなどで補っているこの時代では、厳しいものがあるのだろう。

 今夜はここで野宿のようだ。とは言っても、馬車があるため地獄という訳でもない。今は夏なため、寧ろ隙間風が涼しいくらいだ。

 鳥や虫の鳴き声が心地よい。



(今日は早めに寝よう……)



 明日は朝早い。しかも移動中に寝ることはほぼ不可能と言っていい。

 もし睡眠不足などに陥ったら、まさに地獄を味わうことになるだろう。そうならないためにも、今夜は早く寝ることにした。

 紬はこちらに来てから3時間睡眠でも問題はなくなったのだが、やはり沢山寝るに越したことはない。

 そして紬は深い眠りに就いた。









 ◇◇◇









「…………ん――?」



 早朝、紬は心地よい鳥の鳴き声により目覚めた。日はまだ登り切っておらず、少し薄暗い。周りを見渡すと、他の乗客はまだ眠っているようだ。

 今のうちに、と昨日水を汲みに行った近くの川へ向かう。こちらに来る前からの癖というべきか、汚れていなくとも顔は洗わないと妙に落ち着かないのだ。

 川は透明度が非常に高く、比較的深い場所でもそこが透けていた。


 洗顔も終わり馬車のある場所へ戻ると、全員がすでに目覚めていた。現在は朝食の準備をしているようで、各自持ってきたものを準備している。

 食事とは言っても質素なもので、保存の効くパン等だ。一応最低限の食事は配られるようで、硬い水分の少ないパンと、簡単なスープの二つが配られた。


 朝食は各個食べるようで、場所はバラバラだ。互いに不干渉を貫くようで、雰囲気はそこまで良いとは言えない。



「……急いで馬車に乗れー。出発すっぞー」



 その声に全員頷き、馬車にまた乗り始めた。









 ◇◇◇









 こうして、紬が馬車に乗り始めて4日、ラアス村という集落に着いた。


 この荷馬車は大都市フラインを含む六つの集落、都市を巡回していて、トリス村からフラインまでは、必ずこのラアスという街を経由して行くことになる。

 ラアスは畜産が盛んな人口300前後の街で、トリス村よりは大分町の規模が大きく、紬も少しワクワクしていた。見たことのないような鳥や猫のような動物が飼われており、勿論牛のような見た目をした動物も飼われていた。

 今夜はここに宿泊するようだ。しかし紬はそこまでお金に余裕があるわけでもないので、残った2人と馬車に3人で寝泊まりした。



 そして翌日。何があるという訳でもなく、普通に夜が過ぎた。

 紬もそろそろ馬車での移動に退屈し始めていた。初期の頃は期待と初めて乗る馬車に興奮していたが、3日目から飽き始め、4日目には完全に飽きて苦痛に感じ始めていた。



(まだ続くの……?)



 と、思い始めた。絶対に帰りは歩いていく、と紬は心の中で決意したようだ。

 そしてラアスを出る。本当ならばここで魔法書を買いたい気分になり始めているのだが、ラアスには魔道具屋は一つも無いのだ。なのでどうしてもフラインまで向かう必要があった。


 そうして馬車はミンラット山という所に入った。この場所は今までの道と違い舗装が荒く、余計紬を精神的に疲労させていた。













 こうして大変な旅を続けること7日目。山を越えた先には――。




 ――端から端まで数キロあるのではないかという程の大都市が待ち構えていた。


 




二章終了後くらいにこの話を二つに分けて内容を追加するかもしれません。

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