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空の神座で少女は嗤う  作者: naki
『緋色の王』
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魔法書への道




 行商隊は、来たその日の内に首都への旅を再開した。全体的に高価な物のみしか売っていなかったため、村人達は特に何かを買うこともなかったが。


 その夜、紬はルイアとヴェルスにある相談をしようと決めていた。

 今は弟のように思っているロアが寝静まり、そっと紬は隣を抜け出す。そして、少し緊張しながら二人が懇談しているリビングへ向かう。



「ん? ああ、紬か」

「いつもありがとうねぇ。ロアはもう寝た?」

「はい。もうぐっすり寝てますよ」

「本当にごめんね、ロアのこと。最近は野菜が病気の所為で畑が大変なのよ……」



 ここ最近の嵐の所為で畑は壊滅的。さらに野菜の病により、深刻な金銭不足に陥っていた。この村は農業で生計を立てているため、畑が使い物にならないのはとても(まず)い。

 もしここで乗り越えなければ、この村は終わりだろう。



「そこまで大変ではないので大丈夫です……それよりも、この村に魔法を使える人って居ますか?」



 独学が無理なら教えてもらえばいい、と紬は考えた。さらに独学よりも他人に教えてもらった方がよっぽどわかりやすい。



「魔法? 魔法が使えるぐらい優秀な人は、みんなリドストームに流れて行っちゃうからいないのよねぇ」



 話の流れ的に、リドストームとは都市や土地の名称だろう。それもかなり大きな。そこには巨大な研究機関や、もしかすると学園でも在るのかもしれない、と紬は思った。



「俺は先に寝るぞ」

「ええ、おやすみなさい」

「あ、おやすみなさい」



 紬は転生してからの一生をこの村で過ごしている。

 なので、リドストームという所に何があるのかは分からないが、一度は訪れてみたいと紬は思った。

 

 

「リドストームって、何かあるんですか?」

「え? ……ああ、そうね。そういえば貴方はロア・リド出身じゃなかったわね」



 ルイアとヴェルスには、ある程度自分が何処から来たかを教えている。しかし本当にざっくりとしたもので、違う国出身でいつの間にかあそこにいた、という程度だ。

 最初の頃は家に帰そうとしてくれたが、それは紬から断っていた。居候させてもらっているのに、望みの薄いことの為に苦労させるわけにはいかない。

 それに、もう紬は調べは付いていた。ここが異世界だということぐらいは。

 今から二か月前、紬は本当にここが異世界かどうか確かめるため、ルイアに質問したことがあった。

「ここの大陸の名前は何か」、そして「この国の名前はは何か」、その二つだ。

 返答に関して、ある程度覚悟はできていたものの、やはりそれは驚愕に値するものだった。返ってきた答えは、アースルズ大陸という聞いたことない大陸、そして地球儀にも無かったロア・リドという王国の名だった。

 それは、ここが異世界だということを意味する。



「はい」

「えーっとね、リドストームっていうのは、リドストーム魔法学校っていうのがある都市なのよ。だから首都の次に色々集まってるの。さっきまでいた行商隊もあそこを周るらしいし」



 やはり紬の予想は正しく、学校が存在していたようだ。そこにはロア・リド全ての魔法使いが集結しているのだろう。だとしたら相当な数になる。行商隊で魔法書が売っていたところを見るに、魔法使いと言うものはそこまで珍しいものでもなさそうだな、と彼女は思った。

 もしかしたら自分も魔法を使えるかもしれない。紬は、そんな期待を膨らませる。



「……魔法って誰でも使えるようになるんですか?」

「さあ、そこまではわからないわ。でもそういえばミリーが練習すれば使えるようになるって言ってたわね」

「……その…ミリーってだれですか?」

「数年前までこの村にいた子よ。リドストームに行っちゃったから今はいないけどね」



  少し寂しそうにルイアがいう。

 踏み込みすぎたかもしれない、と心で紬は少し反省した。恐らくルイアとミリーという人は仲が良かったのだろう。いなくなった友達の話をされても聞かれる側は面白くない。

 なので、紬は話の話題を少し逸らした。



「……そのリドストームに、私だけでも行くとかは……?」

「行くことはできるけど……それならフラインに行って初級の魔法書を買った方がずっと安上がりよ?」



 フラインとは、ここから程近い大きめの商業都市だ。首都ロアイラスやリドストームと比べると半分近い規模の都市だが、それでも初級から上級まで幅広い魔法書も取り扱っている。

 この都市はロア・リドの西側全ての経済を担っている都市で、街の規模こそ小さいが、内部で行われいる経済の流れはリドストームどころかロアイラスにも匹敵するだろう。

 さらにロア・リドの玄関口となる場所に都市が築かれているため、国で一番美しい町としても有名だ。そのため、芸術都市等とも呼ばれている。



(確かに……ありかも)



 金銭面で考えれば、態々リドストームまで行くよりフラインに行った方がいいだろう。もちろん、金銭に余裕があるならばリドストームに行き学校に入学した方が断然いいだろう。しかしルイアとヴェルスの家はただの農家兼狩人だ。そこまで余裕があるわけでもない。

 今手元にある紬の全財産は金貨1枚銀貨17枚銅貨1枚。簡単に言うと銅貨371枚だ。この世界は物価の変動が激しいため日本円換算などはできないが、フッカという安めの芋が五個で安くて銅貨2~3枚、高くて3~4枚ほどだ。

 大体50日前後の頻度で定期的に来る荷馬車が、フラインまで銅貨15枚だ。それに乗りフラインまで行き、残りの金貨1枚強で魔法書を買えばいい。

 それなら安く済むし、早い。最短6日でフラインまで行けるのだ。歩きならば全力でも25日も掛かってしまう。

 前回荷馬車が来た日が39日前なので、あと8日で来ることになる。紬は急にその日が待ち遠しくなった。



「……ルイアさんの言った通りに、10日後にフラインに行こうと思います」

「そうね、じゃあ必要なものを今のうちに準備しときましょうか!」

「いいんですか……?」

「ええ、もちろん」

「……ありがとうございます」



 こうして、紬のちょっとした冒険が始まろうとしていた。










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