王都ジュアイ
ミルクスト王国の王都ジュアイは、国の中心部に位置している。
しかし、国土面積はロア・リドと比べ劣るため、王都までの距離自体はそこまで長くはない。分かりやすく言うとなれば、リドストームからトリス村までが最も近いだろう。
紬も更なる進化を果たしたことで、身体能力も大幅に上昇していた。それにより、たったの15日間でジュアイに到達することが出来る。
そうして、国境の街オルフェを出た。
ここからは森林を通過して王都まで向かうことになる。途中には様々な都市が存在しているが、武器も購入し食料も必要のない紬には訪れる意味がない。
ミルクスト王国はロア・リド周辺と気候が似ているため、紬も歩きなれていた。そもそもここ一帯は遠くまで見渡せる草原が多く、移動するには適している地形である。
「おー……これがジュアイかぁ……」
そして走り続けること14日目。変わらずの景色にやっと変化が起こった。
視線の先には、都市全体を囲む外壁と壮大な王城が印象的な、リドストームと並ぶほどの大都市があった。あれがミルクスト王国の王都、ジュアイである。
王城はリドストームの城とはまた別の印象を受けた。根本的な建築法が違うのか、よく見ると街の建物もロア・リドと異なっている点が幾つも見つかった。
様子を見る限り今回も正面からは入れそうにないので、オルフェと同様の手順で侵入することに決めた。とりあえず、作戦を実行するために、あたりが暗くなる時間帯まで待機する。
そうして、約6時間が経過した。この頃になると、松明や魔法の明かりなしでは歩くことも困難というレベルだ。
こうして見ると、兵士の中には魔法使いも混ざっているように見える。紬は魔法使いにしては体力が高いが、まだ魔法を極めたとは言い難い。加えて剣技で剣士に勝利することも不可能だ。一対一ならばどうにかなるが、多数の敵に囲まれると生存はほぼ不可能と言っても過言ではない。
紬がオールラウンダーであることが、今回の作戦では仇になる形になってしまった。
そして作戦を実行するべく、闇夜に紛れて壁の外周を一周回った。
しかし、やはり何らかの綻びが見つかることはなく、壁からの侵入も不可能と言える。外壁をよく観察してみると、所々修復した後のような痕跡が見つかった。王都だからか資金はたんまりと有するのだろう。
この作戦は潰えたので、あとの方法は一つしかない。
それは、壁を直接昇る方法である。
このことを想定して、紬はオルフェで縄を購入していた。これを外壁の上部に引っ掛け、その縄伝いに上まで昇るつもりで紬はいた。
今日の内には街の中に入るつもりのため、早速と言わんばかりに縄を投げた。しかし狙いは外れ、紬の隣の岩陰に落下した。恐らく重りを結んだ方が狙いも定まりやすいだろうが、石などを結ぶと落下した時に音がなってしまう。今は音を立てたら作戦の成功率が大幅に下がるため、使うことはできなかった。
その後も何度か挑戦し、遂に7回目には縄を引っ掛けることに成功していた。そこから静かに壁を上り、外壁の上に立つ。
そして周辺の建物の屋根に飛び移り、完全に闇に包まれている路地に降り立った。通りから少し外れただけの路地だが、隅にはネズミの死骸もあり、紬にはとても不気味に思えてくる。
暫くここに立っていてもどうしようもないので、歩いて表の大通りに出た。
現在、紬は右も左もわからない状態である。その為に今夜は軽く侵入ルートを探すことにした。
紬は、そうして王城の周囲をじっくりと観察しながら、その日の夜を過ごしていた。その成果か何か所かの侵入の候補は見つかったようだ。
そして数時間経ち、地平線の先から太陽がゆっくりと顔を出し始める。
その時間帯になると、住民たちも活動を開始し始める。そんな店の一つで1日の内に必要な物をすべて買いそろえ、その日の太陽がそろそろ沈み始めるかという時刻。
「……よし、行こう」
紬は早足で王城に向かって歩き出した。




