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空の神座で少女は嗤う  作者: naki
『緋色の王』
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トリス村と魔法書



 紬は現在、狩人のヴェルスについて行っていた。途中、可哀そうだと思われたのか、大きめの葉で簡易的な靴を作ってもらっていた。しかし紬自身は歩くのに苦労しているとは思っていなかったため、ある意味での有難迷惑だったが。

 そうして歩いているうち、石垣で囲まれた小さな集落が見えて来る。集落内は思っていたほど貧乏ではなく、寧ろ活気に溢れ返っていた。そこら中から話し声や笑い声が聞こえ、紬もとても居心地がいいと感じた。

 そして集落の中心部を通りすぎ、徐々に端の方に近づいていく。そうして歩くこと二分ほど、やがて一軒の平屋が見えてきた。恐らく、あそこが目の前の青年の家だろう。

 外観は思っているよりも整っていて、綺麗な印象を受ける。

 青年は平屋の玄関の前まで進み、ドアを三回叩いた。



 暫くすると奥から、まだ二十代後半と思われる女性が出てきた。茶色の髪と、大きめの緑がかった目が印象的な顔である。

 青年はその女性と軽く言い争いをした後、紬に「来い」というジェスチャーをし、家の中に入っていった。女性も同様で、少し心配するような表情をした後に家の中に入っていった。

 そして、



「これからもよろしくお願いします」



 と、青年と女性に頭を下げてから紬も追従するように家に入った。









 ◇◇◇









 紬がこの家に来てから二日が経った。

 彼女は、その日の内に名前だけは紹介してもらっていた。男性はヴェルス、女性の方ははルイアというそうだ。

 そして初日の夜、対価は払うから住まわせてくれと、ジェスチャーなどを駆使してなんとか説得し、何とか働かせてもらっていた。

 なんと空き部屋も貸してくれ、彼女の予想より数倍好待遇であった。そもそもこんな怪しい人物に部屋を貸してくれるかも賭けだったのだ。これには流石に驚く。

 今のところは二人とも優しく、紬の働くモチベーションも上がる。さらに畑仕事や狩りをするときなんかはお金も貰えるので、彼女はある程度は自由に動くことができた。



(給料はそこまで高くないけど、それだけで十分すぎる)

「――! ――――、―――――!」

「あ、呼ばれてる。はーい! 今行きまーす!」



 言葉は通じなくともある程度はニュアンスで分かるものだ。

 そうして紬がこの家に最初に住まわせてもらうようになってから――――










――――1年と2か月が経った。


 現在この家には、紬、ヴェルス、ルイア、そしてつい数か月前に生まれたばかりのロアという男の子の四人で暮らしている。

 母親のルイアは、畑仕事や家の家事で忙しいため、ほぼほぼ紬がロアの世話をしていると言っても過言ではない。

 現在、紬はルイアに変わりつきっきりでロアの世話をしていた。ちなみに紬の見た目は一切変わっていなかった。


 そしてある日、ウェグ・フリーストという行商隊が、遥か遠くの世界最大の大陸とされる、イヴェルトル大陸から遥々ロア・リドのやってきたことで、村内は非常に賑わっていた。

 トリス村は、ロア・リドを囲むように連なっているシグーダ山脈の入り口近くに築かれているため、行商人や旅人はこの村を一度は訪れることになるのだ。国へ入る前に検問もしっかりとあるため、もちろん安全は保障されている。

 しかし近隣の国やアースルズ大陸西部から来ることはあっても、イヴェルトル大陸から態々遠出してくることは一度も無かった。

 そこに、ロアを抱きかかえた紬もいく。やはり異大陸の行商隊なので、見たことないものや珍しいもの等幅広い物が売っていた。


 そして、その中に紬の目に留まったものがあった。見た目は薄い古い本のような物で、地球で本ばかり読んでいた紬からしたらとても興味をそそられる見た目である。なので近くにいた隊員の、まだ二十代前半のと思われる男性に話しかけた。

 ここ一年でかなり言葉使いは上達したため、少し質問する程度ならば可能である。



「すみません。これってなんの本ですか?」

「ん? ああ、これは魔法書だよ。」

「そうなんですねー……って、え? 魔、法?」

「そうだけど……僕何か変なこと言った?」



 紬が気になったのが“魔法”という単語だ。これがこの青年のただの嘘だったらただの笑い話になる。しかしもし本当だった場合、一度はやってみたいと彼女は思った。転移してきた時点で可能性はあったが、今の段階ではまだ確定していなかったため、この際買っていみようかと心の中で検討する。

 まだ情報が不足しているため、さらに質問を重ねた。



「……この本ってなにが書いてあるんですか?」

「魔法書は、その本を書いたのオリジナルの魔術陣が載ってたり、初心者向けとかだったら魔法の使い方とかなぁ。僕も魔法には詳しくないから難しいことは説明できないけど、この本の著者ってあのモリガン・ファルカシスラだから信頼できると思うよ?」

「……すみません。その、モリガン・ファルカシスラって誰ですか……?」



 紬が無知なのか、それともイヴェルトル大陸に住んでいないからなのかは分からないが、モリガン・ファルカシスラという人物をしらない。青年の口ぶりから察するに相当有名なのだろう。

 実際、紬が知らないというと、青年はとても驚愕した様子だった。



「……え?」

「すみません。無知なもので」

「……ああ、こっちこそごめん。それでモリガン・ファルカシスラについての説明なんだけど、この人の本名はモリガン・ルドラリス・ファルカシスラって言って“希王”呼ばれているんだ」

「……その人ってそんなに強いんですか?」

「それはもう、一軍隊消し炭に出来るっていうしね」



 本当にそうだとすれば、魔法とは現代の兵器以上の力を持つことになる。

 それを個人が扱えるというのだから恐ろしい。



「話を戻しますが……この魔法書って買えるんですか? とても高価だと聞いたんですが……」

「ああ、この本は買えないけど、写しなら買えるよ」

「それってどれぐらい掛かります?」

「確か……ここで言う銅貨1060枚くらいかな。」


(……え)



 紬は今一日に五枚銅貨をもらっている。つまり……紬の給料一年分だ。



「高いですね……」

「まあ、これはある程度魔法が使える人向けだからね、高いのはしょうがないさ」

「……では、今日はありがとうございました」

「うん。じゃあまたな」

「はい、またどこかで」

「そろそろ出発の準備も済んだようだし。じゃっ」



 こうして行商隊一同は首都に向かっていった。












(……少し希望が見えた)

「……っひく……う、あ……」

(ん? …………あ、泣く)

 その日、トリス村全体に、小さな赤子の高い泣き声が響き渡った。







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