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空の神座で少女は嗤う  作者: naki
『緋色の王』
18/106

始まり





 紬は、一日掛けて走ってきた道を遡る。

 ガガライアはトリス村と近く、なんと馬車で一日程度の距離しかない。先ほどの人物が真っ先にグラ―リス向かってきていたとしたら、既にトリス村には襲われた後の可能性が高い。

 もし襲撃されていた場合のことを考え、紬は焦った。トリス村に戦闘能力があるものは、片手で数えられる程の人数しかいない。そして誰もが人を殺した経験がない。

 当たり前のことで、何も責める必要はないのだが、今この状況に置いては悪い方向に傾く。


 そうして、紬は走り続ける。

 体の機能を限界以上に駆使し、足の感覚に違和感を感じ始めていた。

 しかし紬は足を止めない。もしもとなれば、ここ一年で習得した攻撃用の魔法があるからだ。威力の高い自然現象を操る属性魔法などはまだ扱えない。しかし、紬の扱う魔法でも人を殺害するには十分な性能を誇る。

 走り続け十数時間、日も昇り始め、明るい時間帯。そんな時間にトリス村が見える距離へと到着した。



「……ッ!?」



 そこから見えるトリス村からは、集落の彼方此方で黒煙が大空に昇っていた。

 遠くから見えるレベルで血が撒き散らされ、武器を持った兵士が住民たちを殺害している。まだ相手も人を殺すことに慣れていないのか、殺害する速度は遅い。

 そして、紬はトリス村の方へと駆けていった。

 トリス村に到着すると、既に村の住人の何人かは既に息絶えているようだ。

 それに怒りを覚え、近くの兵士に近寄る。



「……」

「な、なんだ!? それ以上近づくなら……!」

「……うるさい!!」

「ッ!? うぁ、ああああああああ」



 紬は目の前の人物の腹を、手に持っているナイフで切り付けた。ナイフを使い慣れてない紬に首や心臓が狙えるはずもなく、一度切りつけた後に心臓を切り着け、とどめを刺す。

 しかし、次の瞬間には紬の攻撃に気づいた二人の兵に捕まってしまっていた。

 そして、この集団のリーダーらしき人物が現れる。



「おい! なぜこのような許されざる事をした!」

「貴方達こそ」

「何を……! ……殺せ! 元からこの村の人間は全て殺すと命令されている!」

「は、はい…」



 そうして紬の首に、血濡れた剣の刃が当てられる。

 それに対し、紬は無表情で静止していた。周りの兵士はその行動を少し不気味に感じたが、そのまま命令の通り剣を高く振り上げる。



「やれ」



 次の瞬間、紬の首が綺麗に切断されると思われたが、振り上げられた剣が下げられることはなく、紬は二人の拘束から逃れていた。


 紬はこのような外見をしているが、本質は不死の魔物である。不死系の魔物は人間と比べ常に冷静であり、人間以上に感情が動くことは滅多にない。

 しかし全く憤らないという訳ではない。寧ろ普段冷静な分、憤怒したときの怒りは人間の比ではないのだ。


 加えて、魔物は肉体の性能が全体的に高い。しかも不死の魔物は肉体の限界がほぼないと言っても過言ではなく、長期間の戦闘を可能にしている。

 紬も一応のその不死の魔物に相当するのだ。さらに一度進化しているだけあって、その貧弱な見た目とは裏腹に、筋力は成人男性の平均を大きく上回る。



「お前……! どんなトリックを使った」

「普通に逃れただけ、ですが」



 そして、戦闘を開始する。

 紬の戦闘能力………と言うよりは不死の魔物の本能的な戦闘能力は伊達ではなく、十人強の人数に囲まれていたにも関わらず見事敵のリーダーとの一騎討ちにまで至った。

 しかし不死の魔物である紬相手にそう長く続くわけもなく、最終的には紬の魔法により完全に息絶えた。



「……ぅあッ!?」



 そうして敵を殺害し終えた瞬間。見に覚えのある感覚に襲われた。

 進化である。

 皮膚がひび割れ身体中に激痛が走る。その痛みはそう簡単に耐えれるものでもなく、地面にゆっくりと倒れた。

 そして暫く地面に踞っていると……。



「……ひっく、……ぅう…ぁ……ふぅ…ぅ……」



 小さな子供の、泣いている声が聞こえた。









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