わたしね、サキュバスなの
しばらく二人は戯れていたが、満足したのか月麦は海羽を開放し、緊張した表情で俺のところにやってきた。
そして、俺も月麦にきちんと伝えなければいけないことがあった。
月麦は俺の前に立つと、ひとつ質問を投げかけた。
「あの……さ。あの夢の中でのことなんだけど、あんた言ってくれたわよね?」
「何をだ?」
「その……わたしとずっと一緒にいたい、俺の人生にお前がいないのは、もう考えられないみたいなこと」
「……ああ、言った」
「それってさ……どういう意味か聞いてもいい?」
俺は頷いて立ち上がり、月麦の正面に立ってその揺れる瞳をじっと見つめた。
「俺さ、月麦が気持ちを伝えてくれようとしたときにひどいことを言ったよな、お前とは恋人になるなんてことはありえないってさ」
「……うん」
「でも、それは違ったんだ。俺は自分が傷つくのが怖くて、お前の気持ちと向き合うことから逃げただけ。ほんと、最低の男だよな」
そして俺は、あのとき月麦を泣かせてしまった。
「そのあと、話せなくなってからずっとお前のことを考えてた。お前と話せないのがこんなにもつらいことだなんて考えたこともなかった。そのときに俺はさ、お前のことが一人の女の子として、すっげえ好きになっていたことに気が付いたんだ」
「……っ!」
月麦は口元を抑えて、またあのときのように涙をためた。
だけどそれは、悲しい気持ちから溢れてきたものではなかった。
俺はもう一度、月麦に想いを伝えるために、大きく息を吸った。
「菟田野月麦さん、俺はあなたのことが好きです。もう絶対に泣かせたりしないから、今から俺と付き合ってくれませんか?」
「おお、みんなの前で愛の告白ですか? やりますねえ兄さん!」
「ひゅーひゅー!」
復活した海羽と日葵さんは俺の告白をはやし立ててきた。
そして月麦はついに、ぽろぽろと溜めていた涙を流した。
「後だしなんて、ずるいわよ……返事を聞く前からわたしの答え、もう知ってるじゃない」
「それは、ほんとにごめん」
「あんた、まだわたしの魅了魔法にかかっているんじゃないでしょうね?」
「かかっていたとしても関係ないさ。魅了魔法にかかる前から、俺はずっと月麦のことが好きだったんだよ」
「ほんとうに?」
「じゃあ月麦が信頼できるまで、これからずっと一緒にいさせてくれないか?」
「……うん!」
俺たちは指を絡ませて交差するように、そっと手を握りあう。
月麦は頬を赤く染め、うるんだ目をそっと瞑った。
そしてそのまま二人の顔の距離は少しずつ近づいていき……。
「まて、それはまだ早い!」
「はあ!?」
俺は顔を近づけてきた月麦のことを引きはがした。
「キスするのは、付き合って一か月記念日にデートするときだ! それまでは許さん!」
月麦は信じられないという表情で、わなわなと身体を震わせながら俺のことを見た。
「あ、あんたさ……ほんっとにいい加減にしなさいよね、このヘタレ童貞!」
「バカ野郎、こんなところでお前のビッチな行動を矯正し損ねたら意味がないじゃないか!」
「まだわたしのことビッチって言うの!? ああもう! この昂った気持ちの責任どう取ってくれるのよ!」
「やかましい! 付き合ってすぐの粘膜接触は俺の主義に反するんだ!」
「……もう黙りなさい」
月麦は俺の顔を両手でぎゅっと挟んだ。そして動けない俺に顔を一気に近づけた。
「お、おい、何をする……?」
「わたしの言うことを聞きなさい!」
「――んんぅ!?」
「んっ、ちゅ……!」
いつものそんなセリフと共に月麦に唇を奪われる。
なんだこの感覚は……愛おしい気持ちが心からあふれてくる。
『ぷは……』
俺たちはたっぷりとつながったあと、ゆっくりと唇を離す。
息を吸うのも忘れていた。顔が熱い、これがキス……。
「す、すごいです。カップルがキスしてるところ初めて見てしまいました」
海羽は顔を赤くして呆けていた。日葵さんは両手で口元を抑えていた。
「おおおおおい、ばかやろう! まだ付き合って一日も経ってないカップルが、しかも人前でこんなことしたらダメだろうが!」
「うっさい! いいから、あんたは黙ってわたしの言うことを聞いいていればいいの!」
「――んっ、んんん~~!?」
そしてそのまま、俺は二度目のキスをされる。
身体をよじって逃れようとするも、両手でしっかりと顔をホールドされていて逃げられない。
「逃げひゃ、らめ……ちゅ、んんんっ、れろ」
「んん~~っ!」
舌が絡まって脳が溶けそうになる。だめだ。気持ちよすぎる。
「ぷはぁ……! はぁ、はぁ……」
唇が離れた後も息が乱れてしまう。
すぐ横には目を手で覆うが指の隙間からばっちりと俺たちのキスを覗く日葵さんと、顔を真っ赤にして固まっている海羽がいた。
「お、おいやめんか! こういうのは一年くらい付き合ってからやるものでだなぁ!」
俺はようやく月麦の拘束から逃れ、その両肩を掴んで身体を離した。
「……ねえ、あんたもう知ってるわよね?」
「何をだよ?」
「わたしね、サキュバスなの」
悪びれもせずにぺろりと唇をなめながら彼女はそう言った。
そして月麦は思いっきり俺のことを押し倒してきて、またキスをした。
それがあまりに気持ちよかった。
これは俺が童貞で経験がないからなのか、月麦がサキュバスの血を引いているからなのかはわからない。
ただ、心は月麦のことが愛おしいという気持ちであふれかえり、もう何も考えられなくなった。
俺にだけビッチな女の子。
それも悪くないのかもしれないなあと、俺は新たな性癖をそこに見出したのだった。
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