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月麦の過去と次の約束

「……少しだけ話を聞いてほしいの」


 一緒に歩いていると月麦は落ち着いてきたのか、ぽつぽつと自分のことを語り始めた。


「昔、わたしがまだ小さくて、力が発現はつげんする前のことなんだけどね。男に無理やり乱暴されそうになったことがあるの」


「そっか……そんなことがあったんだな」


「……その時のことがずっと頭に残っててさ。だから男の人がああやって大きな声を出して、無理やり言うことを聞かせようとするのが怖いのよ」


 こいつも俺と同じで、いまだに過去のことを引きずっているんだ。


「だからかな……あんたが初めてわたしの前に現れたとき、こいつは絶対にそのままにしておけないって思った。自分の力で自由にできない男がいることが落ち着かなくて、今でも不安だったから」


 俺たちはどこか似ているように思えた。


 異性に対して受け入れられないことがあって、自分が傷つかないように、自分の身を守るための盾を構えている。


 俺は理想の女性像をかかげて、誇り高き童貞としてビッチを寄せ付けないように。


 月麦はサキュバスの力である魅了魔法で言うことを聞かせ、男を制御しようとした。


「俺は絶対に、お前に乱暴なことはしない。誓ってもいい。だから、もう俺には魅了魔法なんか使わなくてもいいじゃないか?」


 だから俺はそう提案したんだが、月麦は頬を膨らませた。


「それとこれとは別だもん。今でもあんたを魅了するのは、わたしのプライドの問題。だって勉強はしたくないし、お姉ちゃんにだって手を出させたりしないんだから!」


 やれやれ、困ったやつである。


 だが、こうして月麦が俺に自分のことを話してくれたのはうれしかった。


 俺たちはそうやって、ちょっとした秘密を共有しながら、月麦の家の前までやってきた。


 まだ指は繋がれている。


 なんだか離しそびれてしまって、お互いにずっと絡ませたままだ。


 何となくこのまま別れるのが名残惜しいような、そんな気がしている。


 そんな空気を払拭ふっしょくするように、月麦は早口でこう言った。


「と、とにかく、今日はありがと。すごく楽しかった」


「ああ、俺も楽しかったよ。最後ちょっとだけばたばたしたけどな」


「……だったらさ、今日の最後のとこだけやり直さない?」


「一緒にケーキでも食べに行くのか?」


「うん。どうかしら?」


 月麦は上目遣いで聞いてきた。


「いいよ。やり直そうか」


「――約束ね!」


 月麦は嬉しそうに笑いながら、そっと絡ませた指を離す。


 その隙間すきまに風が吹き、残っていたお互いの体温が冷まされた。


「そ、それからね」


 月麦は最後、俺の耳元に唇を近づけて、ささやくように言った。


「……わたしを守ろうとしてくれたときのあんた、すごくかっこよかった」


「えっ?」


「――――っ。おやすみ!」


 月麦はそう言って俺にぱっと背を向けると、玄関まで駆けて行った。


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