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好みのタイプ

 俺たちはそのまま三人で食事に行くことになった。


 月麦のおすすめだということで、彼女に連れられて入った店は、駅の近くにある洋食屋だった。


「ここはグリルチキン定食がおいしいの。ごはんもお代わり自由だから、好きなだけ食べていいわよ」


 月麦がそう言ったので、俺は月麦と一緒にそのおすすめを注文することにした。


 しばらくすると焼きたての鶏肉が、じゅうじゅうと音を立てながら運ばれてきた。


 鉄板の皿が目の前に置かれたとき、ハーブのいい香りが漂ってきて、俺の食欲を刺激した。


 鶏肉好きの月麦のおすすめというだけあって、とてもおいしそうだ。


 ナイフで一口大に切ってから頬張ると、んだところから肉汁があふれてきて、舌が幸せだった。


「……おお、これはうまい」


「でしょ? わたしのおすすめに間違いはないんだから!」


 月麦もお肉を一切れ口の中に放り込みながら誇らしげに言った。


にぎやかな食事は楽しいね」


 日葵さんは嬉しそうにオムライスを食べていた。


「お姉ちゃんはオムライス好きよね」


「うふふ、ここに来たらやっぱりこれを食べないとね」


 日葵さんのオムライスはケチャップが掛けられて、まさに正統派の洋食屋のオムライスという感じだった。


「こんないいお店があったなんてな」


 また一人でも食べに来たいと思えるところだった。


 そうして三人で楽しんで食事をしていたとき、日葵さんの携帯電話が鳴りだした。


「あ、ごめんね。ちょっとだけいいかな?」


 日葵さんは席を立ち、少し離れたところで電話に出た。


 そのあと数分ほど話した後、電話を切ってから、日葵さんは申し訳なさそうに席に戻ってきた。


「あのね、いまバイト先から電話があって、今日風邪でこれなくなった人の代わりに緊急で入ってくれって頼まれちゃったの」


 日葵さんは俺たちの前でごめんなさいと両手を合わせた。


「普段からお世話になっている人たちだから助けてあげたくって。だから今から行ってきても大丈夫かな?」


「日葵さんを必要としている人がいるなら、行ってあげてください」


 日葵さんが抜けてしまうのはとても残念だが、こんなときにすぐに助けに向かうことができる優しい日葵さんが俺は好きだった。


「大地くんありがとう。今日のお会計の分は月麦に渡しておくからよろしくね」


 日葵さんは月麦にお札を手渡した。


「じゃあ私、今から行ってくるね。二人はもっとゆっくり食べてていいからね」


「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」


「今日はありがとう大地くん。また一緒にご飯食べようね」


「はい。こちらこそ、ごちそうさまでした」


 日葵さんは微笑んで、店から小走りで出ていった。


 そして月麦と二人きりになる。


 女の子、それもとびきりの美少女と二人きりになるという緊張するシチュエーションのはずなのだが、こいつといるのは気楽だった。


 もうお互いに、好き勝手に文句を言い合っているからだろうか?


「そういえばさ」


 残りのご飯を二人で静かに食べていたとき、月麦は思い出したように話し始めた。


「あんたって、みーこちゃんが好きなの?」


 みーこちゃんというのは、あの御陵琴音みささぎことねのことだろうか?


「な、なぜそれを……」


「ついさっきお姉ちゃんがわたしの部屋に様子を見に来たときに、御陵琴音みささぎことねってヒロインが出てくる漫画って面白いのって聞いてきてさ」


 月麦はにやにやしながら話を続けた。


「何で急にそんなこと言い出したのかと思って理由を聞いたら、あんたがお勧めしてくれたからだって。あんた、みーこちゃんがタイプでずっと推しているらしいじゃない?」


 なんでそこまで話しちゃったの日葵さん!?


 自分から話すのはまだいいけど、人づてでそんなふうに知られていくのってめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?


「あんたって、ああいう清楚で素朴な感じがするおとなしめの子が好きなんだ? 二次元でもリアルでもそれは例外じゃないってこと?」


「ほっとけ!」


「うちのお姉ちゃん、何となくみーこちゃんに雰囲気が似てるもんね。あんたがしつこくお姉ちゃんのお尻を追っかけている理由がよくわかったわ」


 確かにその通りなんだが、それを改めて指摘されると自分の性癖せいへきを知られたみたいで身体がむずむずする。


「でもさ、あんたがそこまで清楚にこだわるようになった理由って何なの? 誇り高き童貞とか意味わかんないことも言い出すし」


「いいだろ別に、昔いろいろあったんだよ」


 過去にビッチに遊ばれたからなんて言ったら、きっとこいつは腹を抱えて笑うだろう。


「ふーん? まあ、お姉ちゃんに手を出そうとしないならなんだっていいけど」


「お前こそ、何でそこまで日葵さんを守ろうとするんだよ?」


 俺が日葵さんと話しているといつも邪魔してくるし、こいつのお姉ちゃんっ子ぶりもなかなかにひどい。


「それこそ、あんたには関係ないでしょ。大体、頭のおかしいあんたなんかにお姉ちゃんは任せられないわよ!」


 月麦はふんと鼻を鳴らした。


「人のこと頭おかしいとか言ってるけど、お前も大概たいがいだと思うぞ……ごちそうさまでした」


「あれ、もういいの? 遠慮しないで追加で注文していいわよ?」


「いや、ふつうにお腹いっぱいなだけだ」


「意外と食べないのね? じゃあわたしはデザートでも頼もうかな」


 月麦はそう言ってメニュー表を眺めた。


「今日はおこづかいも引かれちゃったし、来週にはあの先生の新刊も買わなくちゃだからその分は残しておかなきゃ……でもこのケーキ、すごくおいしそう。期間限定で来週にはなくなっちゃうなんて……」


 どうやらケーキを食べるかどうかで葛藤かっとうしているようだ。ぶつぶつと独り言をつぶやいている。


「結構食べてカロリーもとっちゃったし、節約も必要だし、今回は我慢しようかな……」


 結局、月麦はカロリーの取りすぎだということにして自分を納得させ、買わないことに決めたようだ。


 すっとメニュー表を閉じ、もとの位置に戻してため息をついた。その表情はすごく残念そうで未練にまみれていた。


 こいつ、こんなところは可愛いよな。


 人には遠慮しないでなんて言うくせに、自分は我慢しちゃうなんて。


 ビッチらしく男の俺におねだりの一つでもすればいいのに。


 もともとご飯代は払う気でいたし、数百円のケーキくらい買ってやろうと思って俺は店員を呼んだ。


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