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反省と煽り

「……ほんとうにごめんなさい、今回はわたしが全面的に悪かったです。反省してます」


 珍しく月麦が落ち込んでいる。


 目覚めた彼女は日葵さんにこってりとしぼられ、そのうえ自分がどんな状態になっていたかをはっきりと覚えていたらしく、俺に申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「大地くん、月麦も反省しているみたいだから、この辺で許してもらえないかな?」


 日葵さんは月麦と一緒になって俺に頭を下げていた。


 日葵さんが謝る必要はないし、なにより俺は怒ってなどいない。呆れてはいるが。


「まあ、今後は変な作戦なんか考えず真面目に勉強することだな」


「くううう……」


 普段の月麦なら文句の一つでも言い返してきそうなものだが、さすがに今日は何も言い返してこなかった。


 そんな殊勝しゅしょうな態度の月麦を見ていると、少々からかいたくなってきた。


「いらっしゃいませ、ご主人様。本日はわたしを指名してくれてありがとう」


 あのときのセリフを裏声でなぞって言ってやると、月麦はピクリと反応した。


「わたしの身体の熱、大地が冷ましてよ」


「ぐぎぎぎ!」


 耳まで赤くなって耐えている。自分がしてきた数々の恥ずかしいことを思い出しているのだろうか?


 まあ、今回も同情の余地は一ミリもないのだが。


「……なんで、なにもしてくれないの?」


 プルプルと震えているのが面白い。俺は調子に乗ってさらにたたみかけた。


「大地がなにもしてくれないなら、わたしにも考えがあるもん、えいっ」


「だああああ、黙って聞いていればあんた、いくらなんでも調子に乗りすぎ! いいわ、そこまでわたしに喧嘩けんかを売りたいなら買ってあげるわよ!」


 月麦はもう半泣きだった。ちょっとからかいすぎたかもしれない。


「すまん、だから泣くなって」


「ううう、お姉ちゃん。あいつがいじめるよお」


「もう、大地くん。反省して謝っている子をいじめたりしたら駄目じゃない」


 とうとう日葵さんにも怒られた。はい、やりすぎました。俺も反省します。


「でも、月麦の体調も戻ったんならよかったよ、頭から氷水被ったのに身体が熱くなってたときはどうしようかと思ったぞ」


「……わたしの心配してくれたの?」


「そりゃするだろ」


 たとえこいつがサキュバスで、他人を魅了できるような強い力を持っているとしても、俺にとっては教え子であり、女の子なんだ。


「何かあったら困るし、とにかく今日は温かくしてゆっくり休め。俺を誘惑するのは構わないが、女の子があんまり身体を冷やすような格好でうろつくんじゃないぞ」


 俺がそう言って帰ろうとしたとき、月麦にそでをきゅっと掴まれた。


「あ、あのね」


 俺が振り向くと、月麦はもじもじとしながら顔を伏せていた。


「うん? どうした、反省しているのなら別にもうこれ以上謝ってもらわなくてもいいぞ」


「その、違くて……」


 月麦はゆっくりと顔を上げた。その頬はほんのりと赤く染まっていた。


「……ありがとね。わたしに最後まで手を出さずにえてくれて」


「ああいや、それは誇り高き童貞として当然のことなんだが……」


 そのお礼に、俺は違和感を覚えた。


「お前的には、俺が手を出してしまった方がよかったんじゃないのか?」


 もし俺が手を出していたらその場で家庭教師を首にできたし、魅了された俺はこいつに従属じゅうぞくしてしまい、日葵さんにも近づけなくなっていただろう。


 そう思ったのだが、月麦はふるふると首を振った。


「わたしね、あのとき自分の心と行動が一致しなくなってすっごく怖かったの。頭がふわふわして何も考えられなくなって、魅了だって誰かを従えるためじゃなくて相手をその気にさせるために使ったのだって初めてで……」


 月麦はずいぶんしおらしくなって、そのときの気持ちを語った。


「だから、もしあんたがえてくれなかったらわたし、あんたとキス……しちゃってた」


 俺もあとほんの少し、脳内でみーこちゃんとの会話が遅れていたら月麦と唇を重ねていただろう。


 そうなっていたら、俺のファーストキスの相手はこいつになっていたところだ。


「わたし、初めてのキスをあんな感じでしたくなかったから……だからあのときそばにいたのがあんたでよかったなって思って」


 やっぱり好きでもない……いや、むしろ嫌っている男にキスされるのは、いくらビッチであるこいつでも嫌だったんだろう。


 そう思ったとき、俺は強烈な引っ掛かりを感じた。


「ん、初めて? おまえ、今までいろんな奴とそういうことやってきたんじゃないのか?」


 こいつは魅了魔法で数えきれないほどの男を手玉に取ってきたであろうサキュバスだ。


 キスはもちろん、性行為だってもう済ませているものだと思っていたのだが……。


「んなっ!? そんなことしてるわけないでしょ!」


「冗談だろ、だってお前ビッチじゃん?」


「ああもう、ほんっとに失礼な男! そもそも、わたしを勝手にビッチだって言い出したのはあんただからね!


 わたしはまだ男の人と付き合ったこともないし、その……キ、キスだってしたことないわよ!」


 言い終えたあと、月麦はちょっと恥ずかしそうにしていた。


 嘘だろ? まさかこいつが初体験どころかファーストキスも済ませていない純情な女の子のわけがない。


 そんな奴が胸の谷間を見せてきたり、パンツ見せてきたり、アダルティーな服を身にまとって誘惑してきたりするか?


 きっと何か裏があるはずだ。


「いい加減わかった? あんたもこれで、わたしのことをビッチとか言わないで……」


 そのとき、俺の脳裏にひらめく光景があった。そうだ、これで間違いない。


「わかったぞ! お前は散々男をその気にさせておいて、ずっとお預けにしてなにもしてやらないパターンの女だな!」


「はぁ!? なんでそうなるわけ!」


「それで男が性欲を持て余し、耐えられなくなって手を出そうとしたら、被害者面して相手を犯罪者に仕立て上げるんだ!」


「あんた本当にいい加減にしないと、名誉棄損めいよきそんで訴えるわよ!」


「まあまあ、とにかくふたりの仲直りも済んだことだし、そのへんにしておきましょう」


 ぎゃあぎゃあといつものような言い争いが始まろうとしたところで、日葵さんが笑いながら俺たちの間に割って入ってきた。


「大地くんもごめんね。今日は謝罪の意味も込めて、一緒に食事でもどうかな? もちろん、お金は私が出すよ?」


 日葵さんとご飯だと!? そんなの行くしかないじゃないか!


「はい、よろこんでおともします! でも、お金は払いますよ?」


「ううん、いいの。今日はいろいろと迷惑もかけちゃったんだし、私に出させて?」


「お姉ちゃん駄目! こんな奴とご飯なんか食べたら、味なんかわからなくなるわよ!」


「だーめ。今日の月麦は悪いことをしたんだから、意見する資格はありません」


「うぐっ」


「大地くんが食べた分は、あとで月麦のお小遣いから引いておくからそのつもりでいてね」


 月麦は大好きな日葵さんにそう言われて、しゅんとしていた。


「大地くんはどんな食べ物が好き?」


「俺ですか? 基本的になんでも食べられますけど、しいて言えば鶏肉関連のものが好きですかね、から揚げとかチキン南蛮とか照り焼きとか」


「ほんと? それならちょうどよかった、月麦も鶏肉が好きだもんね」


「……好きだけど、なんでこいつとは好みがいつも被ってるのよ。なんかしゃくだわ」


 月麦はふてくされながら日葵さんの言葉に頷いたのだった。


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