優越感と嫌悪感
菟田野家に家庭教師に行くようになって数週間が経過した。
あれから月麦は毎回のように俺と日葵さんが一緒にいることを邪魔してきて、懲りずに魅了魔法をかけてくるのだが、さすがにパンツを間近で見せられたときのような危ないことにはならなかった。
そりゃそうだ、あのとき以上の衝撃を俺に与えるのは並大抵のことではできないだろう。
あいつもさすがに下着を脱ぎだしたりはしてこなかったので、とりあえず一安心だ。
それでも奴の魅了魔法はやっぱり強力で、俺はいつも崩れそうになる理性と格闘することになるからそろそろ諦めてほしい。
健全な男子が誘惑に耐えるには、心も体も疲弊してしまうことには変わりがないのだから。
そして、そんな俺を癒してくれるのは、やはり日葵さんだった。
「あ、大地くんおはよう」
「おはようございます、日葵さん」
日葵さんは俺を大学で見つけるといつも挨拶をしてくれる。それだけで幸せな気持ちになって、また今日も頑張ろうと思えるのだ。
「今日の講義は別の教室だね、残念だな。大地くんとはもっとお話ししたいのに」
この人はなんてうれしいことを言ってくれるんだ。
ふたりの話題はもっぱら月麦のことだったが、日葵さんと会話ができる男というのは俺くらいなものだから、大学内で周りに対する優越感がすごかった。
「じゃあまたね。今日は水曜日だから、このあとはよろしくね」
「任せてください! もう月麦の魅了魔法なんて怖くないですから」
「おお、さすがは大地くん。頼もしいね」
日葵さんは去り際に手を振って、俺にとびきりの笑顔見せてくれた。
ああ、癒される。今日も幸せな気分で残りの時間を過ごせそうだ。
「入之波くん、ちょっといいかい?」
そう思っていたのだが、その考えはすぐに否定されることになった。
後ろから声をかけられたので振り向くと、そこには大学で常に女子に囲まれている、モテモテイケメン野郎の桜井裕が立っていた。
今日は珍しく、取り巻きの女の子は一人もいないようだ。
(うげっ、なんでよりによってこいつに声をかけられるんだ?)
こいつは俺の嫌いなタイプの男だ。嫉妬じゃないかって? そうだよ悪いか?
そもそもどうして同じ人間なのに、こいつと俺の見てくれはこんなにも違うんだ。
俺だって体を鍛えて、清潔感を出して、髪型にだって気を使っているのに、こいつの纏う圧倒的なイケメンオーラの前にはすべてが霞んで見えてしまうのだ。
神様は不公平である。
「なんだよ、俺に用か?」
露骨に不機嫌に返事をしたのだが、奴は俺のそんな態度を全く気にしなかった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「ああ、君はよく菟田野さんと一緒にいるけど、どういう繋がりがあるんだい?」
こいつ、探りを入れてきやがったな?
「どうして俺がそれをお前に言う必要があるんだ?」
「いや、ごめんね。確かにプライベートな質問だった」
桜井は人当たりの良い態度で、軽く頭を下げて謝罪した。
くそ、こんな物腰の低い態度を取られると、人としてあまり無下にもできないので困る。
「ほら、菟田野さんは男の人の誘いを全部断って誰とも遊ばないからさ、君と楽しそうに話しているのを見るとちょっと気になってね。僕も彼女と仲良くなりたいんだ」
本性を現しやがったな、あきらめの悪いイケメンめ!
お前には日葵さん以外の女が山ほど寄ってたかってくるんだから、俺の邪魔をしに来るな!
「……たまたま話す機会があって仲良くなっただけだよ」
「そうなんだ? もしよかったら、僕たちと一緒に遊ばないか? 女の子の友達もいっぱい連れてくるからさ、そのときに菟田野さんも誘ってくれたらうれしいんだけど?」
お断りですううぅ! 日葵さんをこんな奴に近づけさせてたまるものか!
「……それは本人と話してからにしてくれ」
まあ、俺の理想である日葵さんは、お前からの誘いなんざこれから先も一生受けないだろうけどな! 誘いを断られたから俺に頼んできたんだろうし。
「そうかい? 君も来たくなったらいつでも来てくれていいからね。きっと楽しいよ?」
「ああ、誘ってくれてありがとな」
角が立たないように心にもないお礼を言いながら、俺はさっさとその場を後にした。
桜井は何も言わずに、その場に立って俺の背中をじっと見ているようだった。
それに得も言われぬような不気味な感覚を覚えた俺は、小走りで講義のある教室にまで駆けていった。
もし気に入っていただけたり、おもしろいと思ったら
ブクマや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で応援していただけると嬉しいです。
創作の励みになります。




