筋肉はすべてを解決する
「やった! ここまで魅了が強くなればもう戻れないはずよ! これであんたも終わりね。さて、何をさせてやろうかしら」
意識がふっと戻ってくる。
目の前では月麦が俺に向かって勝利宣言をして、何をするかを楽しそうに考えている。
俺は油断しきった奴を見て、にやりと口角を上げた。
「なに勘違いしてるんだ?」
「へっ?」
「まだ俺の抵抗は終了してないぜ!」
「う、嘘!? なんでまだ理性が残っているのよ!?」
月麦の動揺した顔を見ながら俺は集中した。
思い描くのは最強の自分、筋肉の鎧を鍛え上げ、血液が集まりパンプアップした肉体美。
さあ、筋肉で解決だ。
「うおおお! ヒンズースクワットオオオォ!」
光の速さでスクワットを始める。息が上がって血がたぎる。筋肉が成長し、雄たけびを上げて喜んでいるのがわかる。
「ふん、ふん、ふん、ふん!」
「な、なにこの人!? いきなり叫び声をあげながら筋トレ始めたんですけど!?」
「さあ、次はプッシュアップだ!」
腕立て伏せの姿勢をとり、高速で体を上下させる。
「はああああ!」
息が上がって腕を上げられなくなるまで続ける。最後は膝立ちになり、負荷を減らして追い込みだ。
「最後はバイシクルクランチイイイィ」
身体をひねりながら自転車を漕ぐように腹筋を収縮させる。
月麦は俺の姿を見てがっつりと引いていた。
「ふうううぅ! 何とか煩悩を振り切ったぜ! やっぱり筋肉はすべてを解決してくれる」
爽快な汗を流し、熱くなった身体を日葵さんに入れてもらった麦茶を飲みながら冷ました。プロテインがこの場にないのは残念だ。
「はああぁ!? なんでよおおおぉ!?」
月麦は叫んだ。
「嘘でしょ!? 筋トレなんかで耐えるなんておかしいでしょ!?」
「ふっ、おかしいことなんかないさ。俺にはお前と違い、信頼できる仲間たちがたくさんいたんだからな!」
今もその仲間たちは、俺の身体で生きているのだ。
「なにわけわかんないこと言ってんの!? やっぱり頭おかしいわよあんた!」
失敬な、ただ筋トレをしていない人には一生わからない感覚かもしれんがな。
しかし、今回は筋肉に助けられた。筋トレしていてよかったぜ。
やはり俺の『心と身体を鍛えることが誇り高き童貞につながる』という考えは間違えていなかったんだ。
「……こんなに覚悟を決めて、昨日も一日中この作戦で聞くかどうか悩んだのにいいいぃ」
月麦はがくりと膝から崩れ落ちた。
「わたし、ただのパンツ見られ損じゃない! なんでこんなやつにパンツ見られた上に今から勉強しなきゃならないのよぉ……」
完全に自業自得だった。
「お前がやってることは、ダイナマイトを体に巻いて突撃してくるようなもんだろ! 頼むから自分がちゃんと生き残ることを考えて作戦立案しろよな!」
膝を抱えて丸くなっている月麦に、その声は聞こえていそうになかった。
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