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美症女  作者: みるちーの
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アイリス 1

教室の真ん中を陣取っている1人の男子が、ふざけた感じでアニメキャラの真似をする。

周りからは笑いが起こったり、お前馬鹿かと茶化しが起こる。ふざけた男子は満足そうだ。

そんな光景を机に突っ伏したまま、私は横目で見る。

私にはあんなこと出来ない。

人前で何かをするのは苦手だし、私には面白味も何も無い。センスだって無い。



数日前にある人に言われた言葉が、脳裏を過る。




はぁ、と深くため息をついた後、リュックのサブポケットを漁る。

かわいいキャラクターがデザインの手鏡を取り出す。

鏡には、怠そうな表情をした私の顔面が映る。



前髪は問題無し。



今日は睫毛の調子が悪いのか、私の睫毛の上げ方が悪いのか

カールキープ力が強いマスカラを使っているのに、睫毛はもう下がってきている。最悪だ。


涙袋だってもっとぷっくりさせたかった。今使ってる影用のアイライナーが、あまり良くないのかな。



今日の私は、68点と言ったところか。

いつもよりメイクの調子が悪いし、何より気分が落ち込んでて暗かった。



色々考えてしまって、頭がいっぱいだ。

手鏡をしまえば、次はスマホを取り出す。


スマホカバーも、手鏡と同じキャラクターのデザインだ。


ピンクと白のうさぎのキャラクターで、私は小さい頃からこの子が好きだ。



財布もペンケースも、リュックに付けているマスコットも全部この子だ。


メイクをする時のヘアクリップだって。



私の一部がこの子だと言っても、過言ではない。


この子のグッズを沢山持ってるおかげか、うさぎのキャラクターが好きな子として認知されることが多かった。


まあ認知されるだけだけど。




スマホの電源をつければ、ロック画面いっぱいに好きな女子プロレスラーの画像が表示される。

所謂私の“推し“だ。

相変わらずメイクは濃くて、睫毛はバサバサで人形の様だ。

ピンク色で染めた毛先がくるんとしている。

前よりもっとダークな雰囲気になっていて、黒いリップまで塗っていた。


外国人特有の、元々彫りがとても深くて二重幅が広い顔立ちをしてるので、濃いメイクが本当によく似合っている。


彼女のメイクをケバすぎるとか、薄い方が絶対可愛いのにって言う人がいるけれど

私は彼女のメイクが好きだ。


ツインテールをして、可愛い格好をして

リング上で戦う彼女は本当に美しくて、かっこいい。


背が小さくて可愛らしい女の子が、ガチガチプロレスラーだなんてギャップ萌えでしかないだろう。


そこも好きだけれど、彼女の考え方や価値観にはいつも惹かれる。

心も強くて、芯もあって、可愛くて強い女性。




こんな風になれる日が、私にも来るのかな。







悪戯っぽいようなはたまた可愛らしい笑顔で、こちらを見る彼女に微笑みかけて

ロックを解除し、ホーム画面を開いた。














見慣れたアプリが並んでるのを見てると、LINEの通知が溜まっていることに気付いた。


確認すると

公式アカウントや友達のLINEを未読したままだった。


トーク画面には行かずに、LINEの友達が並んでるトーク欄を見る。

公式アカウントからは、好きな服のブランドのセール告知が来ていた。

ああ、後でチェックしないとな、と

予算を考えながら肩をすくめる。


そう考えながらスクロールしていると

ピタリと手を止めた。



去年頃に学校を辞めた友達から、LINEが来ていた。


彼女はあまりLINEを使わない。だからLINEで話すことも無かった。



まだ彼女が学校にいた時は、よく話していたけれど

彼女がいなくなってからは、全然話してなかったから、突然のLINEに正直動揺を隠せなかった。


少し躊躇しつつ、トーク画面を開くと

次いつ会えるか、と言った内容のメッセージが届いていた。


ぐるりと頭を回転させ、シフトが入ってる日を思い出す。


そういえば今週は土曜日が空いてるな、と思い

手馴れた手つきで文字を打つ。


「土曜日なら空いてるよ。」

と、簡潔に送信する。


これでもし会うことになったら、何処で会おうか等と考えるも

それは彼女とまた相談すればいいだろう、と勝手に納得してLINEを閉じる。


軽く息を吐き、ふと時刻を確認すれば

休み時間終了まで残り僅かだった。


次は確か古典だった気がする。

ああ、絶対うとうとしちゃうなあ。


月曜日から大嫌いな古典が入ってるのは、本当に憂鬱だ。

思ってるのは私だけではないのか、月曜日一発目の古典は皆うとうとしている。



なんと言っても教科書が重いのだ。

かさばるし、疲れる。


またひとつ溜め息をつけば、ギャハハと言った騒がしい笑い声がまた耳をつんざく。


先生早く来てほしいな、と顔をしかめる。

もう帰ってゴロゴロしながら本でも読みたい。

やっぱり此処は苦痛でしかない。




「あやせさん。」




急に後ろから苗字を呼ばれて、ビクッとする。

顔を上げて振り向くと、そこには同じクラスの女子がいた。



丸メガネに、バサリと切られたショートカット。




彼女の名前は奥田さん……だったはず。




たまに話すけど、私からは殆ど話しかけないから名前も曖昧に覚えている。



真面目で課題もちゃんとこなしてて、よくいる漫画の優等生キャラみたいな子だ。



また話しかけて来たけど、一体なんの用だろう。早く終わらせて欲しい。




「あやせさん、この前の古典休んでていなかったでしょ。」




「これ、この前のプリント。書いておいたから。」





そう言って彼女は透明なファイルからプリントを出し、私に手渡してきた。




「あ・・・。」



思わず私は口をあんぐりと開けてしまった。


そういえばそうだったっけ。



私は授業は普段滅多に休んだりしないから、忘れてたかもしれない。




「ありがとう・・・。助かる。」




そう言って私はぎこちない笑みを浮かべ、お礼の言葉を述べた。



正直、迷惑を掛けてしまったという気がして、なんだか気まずかった。



でも奥田さんは特に気にした様子も見せない



というかこの子はいつも表情を変えないから、何を考えてるのかさっぱり分からなかった。





「うん。体調は、大丈夫?」





「あ、う、うん!大丈夫だよ。ありがとね。」




気にしてないのなら良かったとホッとしつつも


体調の良し悪しを聞かれて、話慣れてない私は慌てて答えた。



さっさと切り上げて、古典の教科書の清少納言の話を読みたい。



そうへきへきしてる様子を彼女は察したのか、「じゃあ。」と席に戻る素振りをした。




あ、よそよそしい態度とっちゃったとハッとするも




また彼女は振り向いて





「そういえば、あやせさんアイシャドウ変えた?」





「へ?」





思わず間抜けな返事をしてしまった。




アイシャドウ?




いや変えたのは事実だけど、彼女からその単語が出てくることに驚きを隠せなかった。





彼女は着飾ってない……いや、言ってしまえば化粧っ気もない、かなり地味な子だから。




「う、うん!か、変えたよ〜。・・・よくわかったね?」




心の中が読まれないように、適当に返事を返しては笑顔を取り繕った。




「・・・凄く似合ってるね。」




少し笑みを零しながら彼女はそう言うと、自分の席へと戻って行った。





鳩に豆鉄砲を食らったような顔をしてる私は、少し胸が高鳴っていた。







それは似合っている、と言われたことに対してなのか






自分が思ってもみなかった、奥田さんの違う面に気づいたからなのか






定かではなかった。

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