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どれもこれも似たような外観で両開きの大きな引き戸と、ひかえめな窓がついている。ここはちょうど商店街の裏手だと思い当たったミグは、これらが商品を保管する倉庫群だと察した。
太陽は地平線の向こうに隠れたか、人気がなくなり街灯も少ない倉庫街はシンとした薄闇に覆われている。本当にこんなところにお店があるのかしら。疑問が過った時、道に落ちるひと筋の明かりが見えた。それは人ひとり分ほど開いた大扉からこぼれている。
ひかえめな窓からも煌々とした明かりと人の話し声があふれている倉庫前でシェラは振り返った。
「俺は裏口から入るから、ミグは正面から行って適当に座ってて。好きなものなんでも頼んでいいよ! 俺のおごり」
いたずらっ子のように笑ったシェラは片手を挙げて、あとで行くよ! と約束し駆けていった。
「そう言われても……」
ミグは明かりのもれる正面入り口をちらりと見て気後れした。酒を飲める年齢だが、酒の味にも酔っ払いにも苦手意識を抱くミグは、ひとりで夜の店に入ることに抵抗を覚える。テッサがいてくれたらなあと思いつつ、扉の隙間から店内を覗いてみた。
大扉から奥のカウンター席までまっすぐに伸びた通路は想像よりもずっと長い。まるで国際離発着場の滑走路のようだ。さらにこの空間を広く見せているのが、普通の建物より遥かに高い天井だった。在庫をたくさん積み上げられるように設計された高い天井は音をよく反響し、客たちの話し声が四方八方から降り注いでいた。
そして左右に所狭しと置かれたテーブルのなんと統一性のないこと。木箱の上に板一枚置いただけのテーブルと切ったままの丸太に腰かけ料理を楽しむ客もいれば、その隣で酒ダルを囲み立ち飲みしている三人組もいる。壁際にはひとり客の姿が目立ち、オレンジ色の照明魔灯を艶やかに照り返す長髪の女性が窓枠にもたれかけていた。
「女の人もいるんだ……」
ミグはずっと気が楽になって、談笑と怒声と食器の触れ合う音が飛び交う饗宴へ足を踏み入れた。




