表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第3章 アンダー
93/352

93

 女性はなにか言いかけてのどに手をやり、軽く咳をした。すかさず寄り添うシェラに微笑んで、女性はもう一度唇を動かした。


「おかえり、シェラ」


 その声はもう何年も言葉を発していなかったかのようにかすれて、咳でのどを痛めたせいだろう女性にしては低く、辛うじて聞き取れる程度だった。だがシェラは本も上着も放り出した両手で母をひしと抱き締め、喜びに声を震わせる。


「母さん……! 喋れるの? 痛くない? 苦しくないの?」

「ああ、シェラ。あなたに、伝えたいこ……いっぱい……」


 まだ本調子ではなく途切れがちになってしまう母に、シェラは何度もうなずく。


「うん。うん。だいじょうぶ、わかってるよ。全部伝わってるから」


 ハッと見開かれた母の目に涙があふれるのをミグは見た。それは恵雨けいうのようにこけた頬を流れほんのり桃色に染め上げる。我が子を掻き抱く節くれ立った指と、そっと触れ合わせた額は、言葉よりも雄弁に子を思う愛をささやいていた。


「ミグ、改めて紹介するよ。俺の母、ソリアだよ」


 部屋へ招かれ、ロフト下のベッドに腰かけたシェラの母ソリアと、ミグはお辞儀を交わす。するとソリアはナイトテーブルの紙とペンに手を伸ばした。のどの炎症がひどく喋れなかった時は、筆談で過ごしてきたのだろう。

 しかしミグは「ちょっといいですか」と断りを入れ、紙面にペンを走らせていたソリアの手を掬い上げる。

 目を閉じると上階に敷いた魔法陣からソリアへ、ひと筋の砂のように注ぐ自分の魔力を感じた。それは肺と咽頭を中心にソリアの体をゆったりと巡る。咳をしていたことから患部のあたりをつけ、ミグはシェラの帰りを待ちながら魔力調節をおこなっていた。

 だが、その効果はかんばしいと言えない。ソリアの体力を懸念して極微量の魔力しか流していないせいだ。実際に触れ合ってみればもう少し〈女神の祝福(ララ・セラピア)〉を強められると期待したが、ソリア自身の魔力はろうそくの灯のように弱い。それはそのまま体の衰弱を表している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ