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「つまり今は時間が欲しい。戦後処理については連合国との兼ね合いもあるんでね。きみたちはまあ、今しばらく生活保護暮らしを謳歌してくれたまえ。ということで……」
そこまで言ってレゾンはヴォルを見やり、指を一本や三本立てて見せた。首をかしげるミグ、テッサ、ヴィンの前で、ヴォルは五本の指を開いて首長と無言のやり取りをする。やがて首長と秘書のでこぼこコンビはなにやら深くうなずき合った。
「では、魔法使用制限の違反により来月から給付金は五万オーツ減額の処分とする」
『えええええっ!?』
ミグとテッサの絶叫が重なる。
「ちょっと待てやこら! おまっ、いい感じのこと言っといて結局金減らしてじわじわ殺す気か!?」
さらに一歩詰め寄って抗議するヴィンを、首長はきびすを返すことでかわす。そのまま馬車に戻るレゾンを追いかけようとしたヴィンの間にヴォルが割り込んだ。
「心外ですね。金と住む家を与え、限りなく自由にさせてやっている現状に不満があるとでも? いいんですよ、こっちは牢獄送りでも。テッサ様たっての嘆願がなければぶち込んで差し上げていたんですから」
押し黙ったヴィンの肩越しに、ヴォルから意地悪な目で射抜かれミグもなにも言えなくなる。
その時、後ろからサッと風が吹き抜けた。ふわふわとひつじ頭を揺らして駆けていくのはシェラだ。魔法陣学校に通う少年は底抜けに明るい声で首長レゾンを呼び止める。
そして驚くべきことを口にした。
「首長さまー! レゾン首長! あれやったの俺です、〈二重・鬼灯〉」
目撃者どころかまさかの本人登場に、場は一瞬静まり返った。シェラはきょとんと固まった面々を見回し、頬をぽりぽりと掻いた。
「あー、俺のこと知ってます? 南区の国立魔法陣学校の二年生シェラです。専攻してるのは治癒魔法なんですけど、どうしても繊細な魔力調節が苦手で成績はドベなんですよね。あっ、でも居酒屋で火番のアルバイトしててそこで魔力調節の勉強はしてます! そこのモチャップルパイ絶品なんですよー!」




