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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第2章 雨降らしのアプリーシア
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「それはひとつひとつが〈一重ソロ〉だもん。七重がけとはわけが違うよ。やってみたことあるけど、できる気はしない」


 そんなに難しいのか、とつぶやいたヴィンにテッサはきらりと強気な目を向ける。


「高名な魔法陣学校の校長でも難しいと言われています。でもミグはいつかきっとできるようになりますわ」


 勝手に断言するテッサにミグは苦笑い「どうかなあ」とやんわり否定した。それでも幼なじみは微笑を崩さず、桃色の髪を優雅に払ってみせる。自信のある時の仕草だ。

 ミグが今出せるのは〈五重クインテット〉までだ。それさえ心臓が破れそうなほど息が上がり、玉の汗だくで一分ももたない。さらに二段階上げるなんてとんでもない話だ。あっという間に魔力が枯渇してミイラになるに違いない。七重がけは異次元の魔法だった。

 親友に隠れてこっそりため息をついたミグは、気分だけでなくなんだか体まで重くなってきた。いや、気のせいではなく本当に重い。


「え、え、え?」


 横を見るとにんまり笑った中年男性が、なにやらぎっしり詰まった大袋をミグの肩にかけていた。袋の中からはごぼうとネギがびょおんと飛び出し、他にもりんごやぶどうといった食べ物がこぼれそうになっている。


「い、いやあの、ちょ」


 困惑しているうちにもう片方の肩もずっしり重くなる。目尻にしわを寄せた初老の女性が、今度は衣類やタオルでぱんぱんに太った大袋をミグに押しつけていた。無理やりねじ込まれた女神像の置物が心なしか苦しそうだ。

 追いうちとばかりにささっと近づいてきた女性にココアとフルーツタルトを持たされる。気づくとテッサもまったく同じ状況で、ヴィンは大袋を持った人々から逃げ回っていた。


「いやよくわかんないんですけど!?」


 トマトの刺しゅうが入ったエプロン姿の中年男性が八百屋の主人、針山を手首に巻いた初老の女性が仕立て屋の婦人、タルトを持ってきた女性がカフェ店員あたりなのはわかる。大橋女神像広場でも見かけた。

 しかし、みんな一様ににこにこ笑っている集団に囲まれるのは少し恐怖だった。

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