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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第2章 雨降らしのアプリーシア
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 ヴィンが灰色の雨空を見上げてぼやく。彼も危うい立場であることに変わりないが、川の流れのようにひょうひょうとしていられることにミグは少し羨ましさを感じた。


「とても残念だけれど雨もやまないし、収穫祭は中止にするしかないね」


 はたして東区商店街会長ホッパーの判断は、ヴィンの言った通りとなった。西区の会長もその意見に肯定を返す。再び大橋女神像広場に集まった各店舗の主たちは、誰も異論を唱えなかった。

 騒動が収まった直後になって到着した警備隊は、ホッパーをはじめ複数人に事情聴取をしたり、壊れた女神像の残骸を撤去したりと後処理だけ済ませて早々に帰っていった。被害が女神像とその周辺の食べ物、ちょっと焦げた石畳しかないのはわかるが、実にあっさりしたものだ。

 魔法について根掘り葉掘り聞かれると思っていたミグとテッサの前も、警備隊は素通りしていって肩透かしを食らった気分だ。すっ飛んでくるのでは、と思っていたヴォルもいまだ姿を見せていない。


「お祭り、やらないのか……」


 母ジェンについてきて話し合いを聞いていたクールが、寂しそうにつぶやいた。〈バックトゥバック〉の他の子どもたちはホッパーからお菓子をもらって落ち着いたものの、雨が嫌になったのか出てこようとしない。ナキもまだテッサに抱きついたままだ。

 本当にこれでいいのだろうか。

 ふと、ミグの中に使命感にも似た思いが湧く。ホッパーの判断は妥当だ。しかし子どもたちの楽しい思い出は奪われたまま、食べられたモチャ飾りのように二度と戻らない。特にナキは恐怖という心の傷を負った。それはこれから先長く、深く、少女を苦しめるに違いない。

 〈バックトゥバック〉の子どもたちはすでに苦しんでいる。父親を失った喪失感だけではない。自分のために苦労する母親を見て、幼心ながらに自責の念を抱えているはずだ。

 ミグがそうだった。

 ほの暗い地下水路の片隅で過ごした貧困生活の中、ゼクストが見せるいたずらめいた笑みは希望の灯りであると同時に、幼いミグの心を切なく締めつけた。

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