07
ラッセンは慌ててミグとテッサの腕を掴んだが、賢い姫は父親の考えを察して暴れた。ラッセンは苦々しい表情で力を込めてテッサを引き戻した。姫の小さな体はがくんと崩れて、桃色の髪が乱れる。
「お父様あー!」
「テッサ……」
今まで一度も見たことがないテッサの取り乱す姿に、不安そうなか細い声をこぼしたミグを振り切ってゼクストは大地を蹴る。その気配を背中で感じたジタン王が、段になった氷柱を次々と作り出した。ゼクストはそれを足場に一気にドラゴンの前へ踊り出る。
近づいただけで目に刺激が走った。にわかに涙がにじんでくる。眼球はきっとジタン王のように赤くなっていることだろう。ゼクストは歯を食い縛り、両手に構えた斧を振りかぶった。練り上げた魔力が手から斧へ伝わり、半月の刃を囲んで魔法陣が回転する。
「〈三重〉・〈雷衝撃〉!」
ゼクストがドラゴンの脳天に向かって斧を振り下ろした瞬間、雷鳴が森に響き渡った。その衝撃はジタン王が作った氷の壁を両断してなお留まることを知らず、大地とぶつかり草原を水色の電雷が駆け抜ける。
しかし、ゼクストは手応えを感じていなかった。低いうなり声が頭上から降り注ぐ。目を剥いて顔を上げた時、ドラゴンのかぎ爪の間にゼクストは捕らえられた。巨躯に見合わないそのすばやさに驚く間もなく地面に叩き落とされる。
内臓が口から飛び出したかのような衝撃に呼吸が奪われる。だらだらと滴ってきただ液が頬の皮ふを焼いた。激痛を噛み殺したゼクストの目に、まるくふくれ上がったドラゴンの胸部が飛び込んでくる。間違いなく毒魔法をまき散らすつもりだ。
ジタン王が舌打ちし、ドラゴンの周りを青い魔法陣が囲む。いや、間に合わない。
「逃げろミグー!」
ゼクストはせめて悪竜をこの場に縫い留めようと斧を爪の股に突き刺した。その時、
『やれやれ。これは貸しなんだな、ゼクスト』
眠たげな声とともに小さな体がひらりと宙を舞った。