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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第2章 雨降らしのアプリーシア
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 ヴィンは金髪を片手で掻いて、「俺そういう知識はさっぱりだわ」とぼやいた。テッサは静かにうなずくだけに留める。豊穣の女神ララを知らない者は世界中まずいない。ヴィンがミグのように特殊な環境下で育ったのだと改めて理解した。


「竜の子って?」

「ドラゴンと契約し、その力を得た者のことです」

「ふうん。だったら勝利の女神とかじゃねえの? なんで豊穣なんだ」


 なかなかいい質問だった。ヴィンは機会に恵まれなかっただけで、けして愚かな人ではない。知識を得ようとする意欲もある。

 プロキオン帝国が裏で進めていた人体実験の被害者だったらしいと首長レゾンから聞かされても、テッサの胸のうちは晴れなかった。ヴィンに対しどう接すればいいのかずっと迷い、ついミグを間に挟んでまともな会話を避けてきた。

 けれどいざ話してみればなんてことはない。ヴィンもミグや〈バックトゥバック〉の子どもたちと変わらない、そして自分と同じ人間だった。


「それはララ様のもうひとつのお役目が由来していて――」


 その時突然、市中放送のスピーカーからけたたましい警報が鳴り響いた。大人たちが一斉に硬い表情でスピーカーを見上げる中、子どもたちはきょとんと顔を見合わせる。

 こちらは警備隊本部です、と話しはじめたスピーカーの声は緊迫した色がにじんでいた。


『ただいま、危険指定害獣(がいじゅう)が本国に接近していると報せが入りました。害獣の種類はアプリーシア。アプリーシア。危険レベル三です。国民はただちに全員、屋内へ避難してください。くり返し――』


 空が割れるような轟音ごうおんがスピーカーを括りつけた柱に直撃したのはその時だった。子どもたちから悲鳴が上がる。しゃがみ込む子どもたちに駆け寄り、肩に触れたテッサの手の甲を雨粒が打つ。それを皮切りに、空はまるで火のついた赤ん坊のように泣き出した。

 大橋の石畳はあっという間に黒く塗り潰され視界は灰色にぼやける。先頭を切って子どもたちを近くの建物へ誘導するジェンの声が飛んできた。それを目印にテッサは子どもたちの背中を押す。

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