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レタスを散々無視しておいて?
そんなしょっぱいもの食べる?
助けを求めて視線をあちこち飛ばしたミグは、ぽかんと口を開けてヤーンを凝視するテッサに気づき安堵した。よかった。やっぱりこれは普通の光景ではない。
「あ、あのジェーンさん。ヤーンがパスタ食べちゃってますが」
ホッパーに自分が作ったモチャ飾りを見せるんだ、とそれぞれ部屋へ駆けていく子どもたちを見送るジェンに、ミグは訴える。しかし、ブラウンの目で盗み食うヤーンをしっかり捉えたにも関わらず、ジェンはにっと笑ってあっけらかんと言った。
「ああ。いーの、いーの。ヤーン校長は特別」
「その、校長というのはどういうことでしょうか」
隠しきれない困惑をにじませた声でテッサがそろりと尋ねる。その間にもひと皿平らげたヤーンが、さらなるパスタを求めてのそりとテーブルに上がりミグはぎょっと身を引いた。
「校長は校長だよ。南区国立魔法陣学校の」
ジェンの言葉にミグとテッサは思わず互いの顔を見合わせた。これでもかと見開いたテッサの目元はひきつっている。
ミグは一応確認した。
「ヤーンって校長になれるの」
「聞いてない。聞いてない」
ぷるぷると震えるようにテッサは首を振った。王族としてきちんと教養を身につけたテッサが知らないなら、校長と呼ばれるヤーンがミグの皿にべちゃりと顔を突っ込んでパスタを横取るこの光景も非常識のはずだ。
だが、あまりにも信じられないことにミグは文句を言うことさえ忘れた。
そこへホッパーがさらに衝撃的発言をのほほんと口にする。
「ヤーン校長は明日の収穫祭であいさつもするよ」
エントランスから響いてくる思い思いのモチャ飾りを手にした子どもたちの歓声と足音は、前夜祭を祝う歌と音楽のようだった。
「今年の豊作に感謝し、来年も実り多き年となることを願う収穫祭が、例年通りおこなえることをうれしく思います。では、祭りをはじめるお言葉をヤーン校長から頂きましょう。校長、お願いします」




