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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第2章 雨降らしのアプリーシア
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「ミグ!」


 突然ミグに抱きついたテッサを見て、ジェン母子は目をぱちくりさせた。だがジェンはすぐにやさしく目を細め、鼻先をすり寄せるテッサとくすぐったくて笑うミグを母のように見守っていた。


「まさかこんなところでヤーン校長に会えるとは思いませんでした。あの湖がお気に召したので? そうですか、そうですか。あそこは水鳥の縄張り争いに巻き込まれることはないですからねえ」


 そこへ陽気でおっとりとした男性の声が聞こえてきて、ミグは目を向けた。観葉植物の仕切りを回って、両手に木箱を抱え現れた男性は「ホッパーさん!」と立ち上がったジェンの歓迎を受ける。

 ホッパーはたしか、ジェンとともに〈バックトゥバック〉を立ち上げた東区商店街会長の名前だったか。と、思い出すミグに「〈キャンディプラネット〉というお菓子屋さんの主人よ」とテッサが補足を入れる。

 年齢は六十代後半といったところか。清潔に整えられた白髪と口ひげにはしゃれっけを感じ、にこにこした笑顔には愛嬌がたっぷり詰まっている。

 ホッパーを見つけた子どもたちが次々とフォークを投げ出し駆け寄った。それは彼がお菓子屋の主人という理由だけではないだろう。はじめて会ったミグさえ、ホッパーの笑みにはどこか安心を覚えた。

 だが、ホッパーの足元をとことこついてきた動物を見てミグは固まった。ピンクの体に紫の平たいしっぽ。間違いない。レタスに見向きもしなかったあのヤーンだ。


「なに持ってるのー?」

「見せて! 見せて!」

「ふふふ。この箱はなにも入ってないよ。今からみんなが作った素敵なモチャ飾りを入れるんだからね」


 ホッパーと子どもたちの会話はどこまでも微笑ましいがそれどころではない。野生のヤーンが平然と室内を歩いている光景に誰も疑問を抱かないのか。というか、ホッパーはこのほ乳類を「ヤーン校長」と呼んでいなかったか?

 ミグが困惑しているうちにヤーンは食卓へ近づいてきて、イスによじ登ったかと思うとあろうことかパスタをむさぼりはじめた。

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