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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第2章 雨降らしのアプリーシア
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 ミグは視線を戻し、中に入りながら改めてエントランスを観察した。そこは見上げるほど天井が高い。一階から二階へ吹き抜けになっている。元は受付だったのだろうカウンターを挟むようにして黒い中央階段が左右に伸びている。だが踊り場から先は朽ちてなくなり、代わりに粗末な木板が渡してあった。

 目を階段の奥に転じて、ミグは息を呑み吸い寄せられるように足を運んだ。埃をかぶったカウンターを越えていっそう歩みを早めようとした時、足元に広がった青にハッと体が強張った。


「ミグ、だいじょうぶ?」


 そこへ出迎えに来てくれたのか、駆け寄ってきたテッサの腕に抱きついてミグは床を指した。


「すごいねテッサ! 外から見た時このホテルすごく縁に建ってると思ったけど」

「そう。縁どころか宙に競り出してるの、半分くらい。私も驚いたわ」


 興奮するミグと微笑むテッサの足元には空が広がっていた。

 浮遊大陸の端っこに建てられたホテルは三日月状に曲線を描き、あろうことか陸の外へ飛び出している。床の半分ほどがガラス張りになっていて、この建物が半ば宙に浮いていることがよく見てとれた。

 さらに空側の壁は全面ガラスだ。好奇心を抑えられないミグに気づいてテッサが手を引くが、待ったをかける。朽ちた階段や埃をかぶったカウンターを思い出し、今さらながら耐久面が気になった。

 テッサは笑って「柱やガラスはとびきり頑丈だからだいじょうぶ」と言った。


「ミグ来るの遅いから心配したわ」


 少し離れたところを飛行する定期飛行船が青空を流れていく。終点の魔石鉱山から折り返し町へ帰っていくところだ。


「ごめん。上の人がまたひっくり返ってたからさ」


 そう言って横を見るとテッサと目が合い、同時に小さく噴き出す。

 テッサはヴィンが生きていてよかったと言っていた。その緑の目に浮かぶ感情は複雑で、ミグにもすべてを読み取ることはできない。だが、ふとした瞬間に疲れがにじんでいるようだった。

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