05
「ズボンまでしっかりはいてらあクソ野郎お!」
ようやく目視でジタン王の姿を捉えた。見事な銀刺しゅうが施された上着を肩から外し、無造作に地面へ放る。片手に手折った枝を持つ王の後ろでは、テッサとミグをしっかり引き寄せたラッセンがいた。
ゼクストの警告よりもドラゴンの咆哮で気づいたのだろう。枝先ですばやく空中に魔法陣を描く友を見て、ゼクストはその判断力ににやりと笑った。
「クソ野郎はお前だ。ったく。〈杖化〉来い、リヴァイア」
ジタン王が描いた魔法陣に杖を突き立てると陣が青く光り出す。次々と魔法陣から生まれ飛び交う光は、枝を根元から造り変えていく。王が再び引き抜いた時、それは青く美しい二又の槍に変化していた。
ヒュッと槍を回し、その切っ先で地面をトンッと叩くとまるで水面に波紋が広がるように魔法陣が浮かび上がる。ドラゴンが大口を開けジタン王に迫った時、王は勢いよく槍を振り上げ氷の壁を出現させた。
「ゼクストさん! これを使ってください!」
その隙を逃さずラッセンが投げて寄越した枝をゼクストはありがたく受け取る。
「〈杖化〉アレクサンドロス!」
ゼクストもすばやく空中に魔法陣を描き枝を突き立てる。その瞬間、紫の稲妻がほとばしりそのムチがバシンッと音を立てる度、枝が変化する。ゼクストが引き抜いたのは柄が長く、半月の刃が光る斧だった。
「俺も戦います!」
「バカ野郎」
ベガ国の兵士に支給される剣を抜いて勇むラッセンを一蹴したのはジタン王だった。王は展開した魔法陣の中に立ち氷の壁に牙や爪を立てるドラゴンの猛攻を防ぎながら、目を覆ってうつむいている。
ゼクストが駆け寄ると、だいじょうぶだと言って顔を上げたが目は赤く充血して涙がにじんでいた。
ドラゴンのなんらかの能力か。
「一頭で一国を墜とすと言われているドラゴンに三人で勝てるわけがない。ラッセン、お前はテッサとミグを連れて城に戻り厳戒態勢を敷け! すぐに〈五聖塔〉を展開し防御を固めろ!」