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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第2章 雨降らしのアプリーシア
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「あのおっさんの胸にも、お前と同じ傷痕があるのを見た」


 ひくり。胸に置いた指先が震えた。


「いや。手術痕なんだろうな」

「どういうこと。ゼクストも私は昔手術を受けたって言ってた。そのせいで足の発育がうまくいかなかったって」


 ミグはひざをすって詰め寄り、ヴィンの肩を掴んで振り向かせた。眉をひそめる相手に胸を叩いて訴える。


「胸の傷も手術の痕だって言ってたけど、どんな手術かはけして教えてくれなかった。ねえ、知ってるなら教えて!」

「知らねえよ」


 うそ! つれなく手を払われて思わず反論する。しかし床に落ちたヴィンの目に暗い影が差し込む様を見て、それ以上は言い募れなかった。ヴィンの片腕は布に覆われた左目に伸びる。


「俺だって実験動物の一匹だったんだ。手術が成功したとかどうとか会話を盗み聞いてただけで、肝心なことはなにひとつ話さねえよ。あいつらは」


 ミグの脳裏にゼクストがヴィンの腕を斬り落とした光景がよみがえった。後ろから、不意討ちだった。味方だと思っていた相手の突然の蛮行に、誰よりも驚いていたのはヴィンだ。


――しょせん俺たちはていのいい駒なんだ。


 そう言ったヴィンの言葉が的中した瞬間でもあった。彼は捨て駒に使われたのだ。帝国兵として参戦していたヴィンの身が拘束されないのは、不自由な体に加えて事情が考慮されたのだろう。

 そこにあったはずの物を求めるように、布の上から左目をさするヴィンの手にミグはそっと触れた。弾かれるように顔を上げたヴィンに力なく微笑みかける。


「痛む? 治癒魔法かけようか」

「魔法でも失ったもんは戻せねえだろ」


 口調は冷ややかだったが、今度は手を払われることはなかった。

 戦場で垣間見たヴィンの左目を思い出す。右目は水色だが、左目はそれ自体が紫に発光しているように見えた。ただのオッドアイではない。自分も実験動物の一匹だと言ったヴィンに、ミグはひとつの確信を抱いて口にした。


「ヴィンの手術は、目だった……?」

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