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パンツ一丁のやつがなにを言うか。と言い返したかったが、上腕から先がない金髪男の右腕を見てミグは言葉を飲み込んだ。
火の海に包まれる王城の屋根で邂逅したプロキオン帝国兵の金髪男は、生きていた。狂人と化したゼクストに片腕を斬り落とされたものの、ミグの治癒魔法が命を繋いだ。
名前はヴィン。ゼクストの戦闘力を記録するため戦場にいたという。彼もミグと同様、入院中は治療と身体検査を平行して受けさせられた。そしてともにこのアパートにいる。ミグが自分の置かれている状況が、処遇が決まるまでの猶予期間に過ぎないと考えるのは、ヴィンの存在が大きかった。
首長の秘書ヴォルに言わせれば、ヴィンもまた間違いなく独房行きだからだ。
「服、着替えたいんでしょ」
「ひとりでできる!」
「さっき転んでたくせに?」
うっ、とヴィンが言葉を詰まらせた隙に、ミグは壁際でくしゃくしゃになっているズボンとベッド上のシャツを見つけて持ってくる。そして相手が新たな文句を言う前にひざをつき、ズボンのはき口を広げて差し出した。
「肩に手置いていいよ」
「おま……。すっかり恥じらいもためらいもなくなったな」
ミグはうつむいていてどうせ見えないと思い唇をひん曲げた。顔を上げたら見たくもない股間が目の前にある体勢が平気なわけがない。だが、ヴィンを片腕にして殺しかけた犯人が父親であることに負い目を抱いている。
罪滅ぼしではないが、ミグは親切ていねいにヴィンの世話をしなければならない責任を感じていた。が、思いとは裏腹に、ヴィンがズボンに足を入れるや否やミグは力いっぱい引き上げて布を股間に食い込ませた。
「いってえええ!?」
「うるさいなあ! 黙って世話されなよ!」
「やってくれたな!? このぐうたら魔導師っ、ぐえっ!」
抗議を上げる金髪頭をミグは問答無用に押さえつけた。そして片腕を通しておいたシャツの襟口を力任せに潜らせる。もっとやさしくしろ! という文句は黙殺した。




