04
枝のゆくえを追ってゼクストは目をぎょっと剥く。草花がみんな枯れている。しかもどの植物にも茎や葉に黒い斑点が浮かび上がっていた。
なにかの伝染病? まず過った考えをゼクストは即座に否定する。こんなに早く感染が広がるとは考えにくい。
薄気味悪くなってゼクストが茂みから離れた次の瞬間、人の腕ほど太いかぎ爪がついた巨大な脚が低木を踏み潰した。
「は……?」
メキメキと木々の悲鳴が静かな森林に響き渡る。おそるおそる視線を上げると、羽毛に似た角の下で血のように赤い目が片方、木もれ日に照らされていた。赤い目を持つのはこの世で唯一ドラゴンだけだ。
「うそだろ! ドラゴンは全部トリックスターが管理してるんじゃないのかよ!?」
首周りにふわふわとしたたてがみを持ったドラゴンはギロリとゼクストをにらみ、岩のように大きい頭部を突き出して口を開いた。鋭利な牙の隙間からだらだら垂れる液体は、地面に触れるとシュウッと音を立て土を蒸発させる。
その光景を目の端に入れながらゼクストは身をひるがえして走り出す。遅めの昼食に逃げられたドラゴンが怒りの咆哮を上げた。
「やばいやばいやばい! ジタン! 〈杖化〉! 〈杖化〉! ドラゴンだあああ!」
数十メートル先にいるジタン王たちに届くことを願ってゼクストは腹の底から叫ぶ。やや間があって、喚く男の声が返ってきた。おそらくジタン王のものだ。しかしなにを言っているかまでは聞き取れない。こっちはドラゴンの脚が立てる地響きに加えて、なぎ払われる木々の騒音がひどい。
後ろから蹴飛ばされてきた幹まるごとを越えながら、ゼクストはやけくそに聞き返した。
「だーかーらー! お前パンツはいてんのかって聞いてんだ! パンツはいてないなら戻ってくんなテッサとミグの視界に入るな。そのまま汚いもんといっしょにドラゴンに踏み潰されろ!」
ジタン王の声はわりと本気だった。ゼクストはカチンときたが念のため下肢を触って確かめる。