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自分のうっかりに照れ笑いを浮かべるテッサにミグも小さく笑みを見せる。
「ずいぶん仲よくなったね。一ヶ月毎日通ってたらそうなるか」
リゲルに来て最初の一ヶ月をミグとテッサは病院で過ごし傷を癒した。その間ミグだけは治療に加えて様々な検査を受けさせられ、退院がテッサより一週間ほど遅れた。
その合間にテッサがレゾン首長とどんな話を進めたのかわからない。帝国出身という自身の生い立ちを考えてミグは拘束されることも覚悟していたのだが、出迎えたのは警備兵ではなくテッサで、通されたのは牢獄ではなく古いアパートだった。
それから一ヶ月間、お気に入りのパン屋で毎日朝ごはんを買って、テッサとふたり小さなテーブルを囲んで食べる素朴でおだやかな日々がつづいている。ミグには夢のような時間だ。恐ろしいほどに。
今は今後の処遇が決まるまでの猶予期間といったところか。テッサはなにも言わないが、ミグはそう考えている。
「そうなの。〈バックトゥバック〉のお手伝いもさせてもらってるんだ」
「〈バックトゥバック〉?」
幼なじみが最近、朝食後に長時間家をあけるのはそれかと思いながらミグは首をひねった。
「ジェンさんと東区商店街会長のホッパー様が立ち上げた母子家庭を支援する団体よ。様々な理由で旦那様を亡くした母子に衣食住を提供しているの。東区の外れにある廃ホテルを改装してやってるんだけど、ミグも来る? 定期飛行船の停留所が近くにあるから歩かなくて済むわ」
常人より軟弱な足を気遣うテッサにありがたいと思いつつミグは苦笑いを浮かべた。
「ありがとう。でもその前に下のシェラに朝からうるさくしたお詫びとかしなきゃいけないから」
私も行くよ、と言ってくれたテッサの申し出をミグはやんわり断る。夢にうなされて無意識に魔法を発動してしまうのはミグの悪い癖だ。足の弱さと比例するように、内向的なミグの分まで近隣住人と良好な関係を築いてくれているテッサを、これ以上わずらわせるのは忍びない。せめて自分の失態くらいは自分で尻拭いしたかった。




